<シリーズ SDGsの実践者たち> 第28回 ごみ収集車も焼却炉もない、楽しく「ごみゼロ」を目指す町
「調査情報デジタル」編集部
ごみを45分別して、リサイクル率80%を達成
徳島県の山間部にある人口約1400人の上勝町(かみかつちょう)。この町にはごみの焼却炉もなければ、ごみ収集車もない。町民が不要なものを持ち込んで、45種類に分別してリサイクルする施設「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」があるだけだ。
上勝町はSDGsの言葉が生まれる以前の2003年に、国内で初めてごみゼロを目指すゼロ・ウェイスト宣言をした。ごみの再利用と再資源化を進め、2020年までに焼却・埋め立て処分をなくそうと活動。ごみゼロには至っていないものの、リサイクル率約80%を達成している。
住民は不要なものが溜まると、ゼロ・ウェイストセンターに持ち込む。分別する種類を表示するカードには「入」と書かれたものと、「出」と書かれたものがある。
「入」は、リサイクルによって町の収入になるもの。「出」は、処理費用を町が負担するもの。1キロあたりの金額が表示されているほか、リサイクルが行われる場所も明示されている。新聞や雑誌は1キロ当たり9.2円の収入。紙と金属類は高く売れる一方、ガラス・陶器類は路盤材として利用されるものの、1キロあたり43円の費用負担が必要になる。
プラスチックごみでは、食品などを包む容器は生産者や販売者がリサイクルする必要があるため、町の負担は0.58円とわずかで済む。しかし、汚れが落ちないプラスチックなどは、固形燃料として焼却処理するサーマルリサイクルするしかなく、費用は69.8円と100倍以上かかる。リサイクルによる収入や費用負担と、行き先を明らかにしていることで、住民は45種類に分別することの意義を理解できる。
生ごみの堆肥化とリユースなどでごみを減らす
上勝町では1997年まで、現在のゼロ・ウェイストセンターがある場所の隣接地で、野焼きによってごみを処理していた。法律で野焼きが禁止されたことで、1998年からは小型の焼却炉を2基設置する。ところが、直後にダイオキシン類対策特別処置法が施行され、焼却炉は2000年12月に閉鎖を余儀なくされた。それが大きな転換点になったと、上勝町企画環境課課長補佐の菅翠さんが説明する。
「焼却炉が3年で使えなくなったことで、より高性能の焼却炉に替えるのか、近隣の広域のごみ処理施設を利用させてもらうのかなど、当時いろいろ検討しました。しかし、財政基盤が小さな町なので、負担金や費用が重くのしかかります。それならばと、環境にも配慮して、できるだけ燃やさずに資源化していく方向に舵を切ったのが2001年でした」
まず始めたのは、焼却していたごみの組成調査だった。町民のごみを開封して仕分けしたところ、半分近くを生ごみが占めていることがわかった。そこで、町内すべての世帯と事業所に生ごみ処理機の導入を支援して、生ごみは全て堆肥化されることになった。
さらに、ゼロ・ウェイストセンターの前身となる、プレハブ小屋のごみステーションで、生ごみ以外を町民に35分別して出してもらうことにした。翌年には34分別に変更。町民の理解も得られたことで、2003年にゼロ・ウェイスト宣言が町議会で全会一致で可決された。2016年からは45分別に変更して現在に至る。
45分別以外にもごみをなくすための様々な取り組みがある。ゼロ・ウェイストセンター内にある「くるくるショップ」は、不要になったけれども、まだまだ使えるものを町民が持ち込める場所だ。気に入ったものがあれば、町内外の誰でも無料で持ち帰ることができる。
大人から子どもまでの服や、食器、本、おもちゃなど、きれいな状態のものが並んでいて、多くの人が通うスポットになっている。「くるくるショップ」によるリユースは、町内の小学生のアイデアをもとに2006年から始まった。実際にごみの削減に大きな効果をもたらしているという。
「持ち込まれる量と持ち帰られている量は、それぞれ年間約5トンぐらいです。多いときには14トンに及ぶ年もあります。この場所がなければごみになっていたものなので、まだ使えるものを次の使いたい人に渡すことができるのがいいところですね」(菅さん)
その他にも不要になった布からリメイク商品を作って販売する「くるくる工房」や、お祭りなどのイベントで使い捨ての食器を使わずに、リユースできる食器を無料で貸し出す「くるくる食器」などもある。こうした取り組みでごみを減らすことに成功している。
町民が楽しく「ごみゼロ」に取り組める仕組み
生ごみの堆肥化やリユース以外で出たごみは、2021年度に269トンあった。もしもすべてのごみを焼却や埋め立てによって処分した場合、試算では1590万円かかることになる。それが、80%を資源化するなどして減らした結果、処理費用は842万円と47%も削減できた。しかも、紙と金属の売り上げは92万円計上されている。その年の買取価格にもよるが、紙と金属の収入は年間で150万円程度になることも多い。
資源化によって処理費用を抑えた分を、町民に還元する仕組みもある。紙パックなど特定の資源を持ち込むと1点あたり1ポイントが付くほか、町内の店舗でレジ袋を断った人に1ポイント、量り売りを利用した人に3ポイントが付く。貯まったポイントは、学校の上履きや体操服、日用品などと交換できる。
また、1歳未満の子どもがいる家庭には、布おむつと防水パンツ、洗濯用洗剤などがセットになった布おむつスターターセットをプレゼントしている。このように、上勝町の取り組みは行政が強制力を持って進めるのではなく、町民に納得して分別してもらうとともに、楽しみながらリサイクルに参加してもらうことに主眼が置かれている。
その結果、2017年に実施したごみステーションの満足度調査では、「かなり満足」と「やや満足」と答えた人の割合が86%と高い満足度だった。自らごみを持ち込むことが人と交流する機会になっていることもあり、プラスに捉えている人が多いようだ。
一方でこの調査では、「ごみの分別は難しい」と感じている人も46%いた。こうした声を受けて上勝町では今後、分別の種類を減らすことなども検討していく。住民の負担を減らしていく理由を菅さんは次のように説明した。
「町内の方にはもう十分頑張っていただいています。その中でも、積極的に協力してくださる方と、そこまで積極的ではない方との意識の差はあると思います。上勝町の今のルールに合う人もいれば、そうではない人もいらっしゃるので、できるだけマイナスな気持ちにならないように、どういう仕組みにすれば楽しくごみを減らせるのかを今後も考えていきたいですね」
上勝町は2020年に新たなゼロ・ウェイスト宣言をして、2030年に向けてリサイクルに取り組む住民の負担を軽減することと、ゼロ・ウェイスト教育の充実、世界への情報発信などを掲げた。
現在のゼロ・ウェイストセンターは2020年に完成。町の取り組みを滞在して体験できる「HOTEL WHY」も併設した。窓や家具をはじめ、至るところに廃材や古材がアップサイクルされた客室に宿泊し、ごみの45分別を体験できるほか、飲み物や石鹸などは量り分けで提供される。日々のごみを見つめ直すヒントが得られるホテルは人気を集め、連日満室状態が続いている。
ごみゼロを目指しながら、「HOTEL WHY」や町内の飲食店などとも連携して、人口減少の課題解決や、町内への経済効果につなげることも大きな目標だ。
上勝町はこれからも、町民が楽しくゼロ・ウェイストの暮らしができることを目指していく。
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