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ヤフコメ閉鎖が問うプラットフォームのニュース支配

調査情報デジタル

【話題となったヤフーニュースのコメント欄(ヤフコメ)の一部閉鎖。その意味するところと今後への影響、課題は】

藤代裕之(法政大学教授・ジャーナリスト)

 ポータルサイトのヤフーが記事を配信している一部媒体に対し、誹謗中傷の抑止という名目でヤフーニュースのコメント欄(ヤフコメ)を閉鎖した。以前から差別発言や誹謗中傷の温床だと批判されてきたヤフコメの対策をより進めたように見えるが、実態は媒体に責任を転嫁しているに過ぎない。本稿ではいつの間にか、インターネットニュースに影響力を強めるプラットフォームの責任を媒体が負わされているという不思議な状況を整理する。

コメント欄非表示は対策の限界

 共同通信は5月、ヤフーが秋篠宮家の長女眞子さんと小室圭さんの結婚を巡る記事に対するヤフコメへの書き込みなどを理由に、小学館の「NEWSポストセブン」、主婦と生活社の「週刊女性PRIME」、東京スポーツ新聞社の「東スポWeb」三媒体のコメント欄を閉鎖したと報じた(2022年6月11日)。

 ヤフコメは、「ユーザーがニュースに関する多様な意見を共有しあい、新たな視点を得るきっかけを創出することを目的」に2007年に始まった。コメント欄を設置するかどうかは原則的に記事を配信する媒体側の判断によるため、新聞社など一部媒体はコメント欄を設置していない。今回は、ヤフー主導でコメント欄が閉鎖されたのがこれまでと異なる。

 ヤフコメの主な対策を表1にまとめた。コメント欄の自動非表示は、2021年10月19日に導入が発表された最新の取り組みだ。24時間体制でパトロールを行ったり、AIやスーパーコンピューターを使ったり、専門家を起用したりしてコメント欄を維持しようとしてきたが実効性は伴っていなかった。そこで、コメント欄ごと非表示となった。

表1、ヤフーのコメント欄に対する対策から一部を抜粋=筆者作成

非表示はテレビ局の記事も多い

 この自動非表示機能が初めて発動したのが、10月26日に行われた眞子さんと小室さんの結婚会見に関する記事だった。まず、テレビ局が配信した記者会見で予定していた質疑応答を取りやめることを伝えた記事のコメント欄が25日夜に非表示となった。記事には1万件を超えるコメントが投稿されていた。次に、26日には別のテレビ局が配信した記事もコメント欄が非表示になった。

 筆者は非表示の騒動を受け、26日10時30分ごろにコメント投稿数が急上昇中のニュースランキングを確認した。1-40位までのうち、眞子さんの結婚に関するものが29件あり、配信媒体の内訳はスポーツ紙9、週刊誌8、テレビ8、新聞・通信社4であった。

 ヤフーは2022年1月に、非表示機能の導入2ヶ月の状況を公開している。1日平均は3.5件(0.05%程度)、媒体別では一般紙・通信社47件、週刊誌42件、テレビ41件、ネットメディア37件、スポーツ紙・夕刊紙31件、海外メディア18件となっている。非表示を引き起こしている媒体は今回対象となった週刊誌やスポーツ紙だけではない。テレビ局も、非表示機能の発動の引き金を引き、週刊誌と同じぐらいの件数で非表示となっている。

なぜか配信媒体に責任を転嫁

 コメント欄の閉鎖は、ヤフコメの対策をより進めたように見えるが、事はそう簡単ではない。そもそも、ヤフコメは、ヤフーのサービスであり、媒体はヤフーに対して記事を配信しているに過ぎない。コメントを管理するのはヤフーの責任のはずだ。

 共同通信の記事には、ヤフーの「プラットフォームサービスの運営の在り方検討会」の構成員で、国際大学の山口真一准教授の「メディア側が昔と同じように過激な報道を続けていると、悲劇的な結末を迎える可能性があり、配慮が求められている」とのコメントが記載されている。

 過激なコメントが誘発されるから媒体に責任というなら、表1の対策は何だったのかということになる。コメント欄を健全に保つことができないのであれば、コメント欄をすべての記事からなくせばいいのではないか?ヤフーがそうしない理由はビジネス的な側面だと考えられている。コメント欄の書き込みややり取りを何度も利用者が見に行くことで、PV(ページビュー)が増え、広告収入が増える。

 ジャーナリスト・アクティビストの津田大介氏は、以前からヤフコメ問題を訴え続けており、『情報戦争を生き抜く』(朝日新書、2018年)では、対策を本気で行わない理由をヤフーが自身を報道機関ではなくプラットフォームと位置づけているからと指摘している。このような、ヤフーがメディアなのかプラットフォームなのかを曖昧にした立ち位置は、ヤフー側と媒体側のどちらにもメリットがあった。

 ヤフー側は、プラットフォームと自らを位置づけて対応することで差別発言などの掲載責任を取らずに済み、媒体側はどのような記事を配信しようとコメント欄はヤフーの問題として片付けることができた。差別発言や誹謗中傷を煽るような記事には大量のコメントが投稿されてヒートアップするとPVが増える。

 状況を変えたのは、差別発言や誹謗中傷への社会的な批判が高まったこと。さらに、秋篠宮さまが2021年11月25日の誕生日の記者会見で、紙の週刊誌報道には一定の理解を示しつつ、「一つの記事に対してものすごい数のコメントが書かれる」「ネットによる誹謗中傷で深く傷ついている人もいますし、そして、またそれによって命を落としたという人もいる」と言及したことだ。ヤフコメと具体的な名前は述べていないが、発言の条件には当てはまる。

ヤフーによるニュース操作の危険性

 かくしてヤフーは媒体に責任を求めた。

 共同通信によると、ヤフー内ではコメント欄の閉鎖は内容が伴わない過激な「釣り見出し」対応の不十分な媒体に対し配信解除を検討し、コメント欄を閉鎖する対応で上記三媒体と合意したという経緯が書かれている。これも進めるべき対応であるが、順番が異なる上に説明が不足している。

 まず順番だが、「釣り見出し」や、テレビやソーシャルメディアの反応をまとめた「こたつ記事」は手軽にページビューを稼ぎ利益が上がる。そのためネットメディアからスポーツ紙、一般紙にまで「こたつ記事」が広がり、フェイクニュースを生み出していることを筆者は『フェイクニュースの生態系』(青弓社、2021年)で指摘した。このような構造を作ってきたのが他ならぬヤフーで、対策を媒体側に求めるなら、手間をかけた調査報道の記事などが収益を上げる構造を作ってからにすべきだろう。

 説明不足はより深刻な問題だ。巨大な影響力を持つヤフートップに配信している記事が取り上げられるかどうかは、媒体の収入を左右する。ヤフートップに掲載する記事の選択は暗黙のメッセージとなり、ニュースをコントロールできる。また、ヤフーは独自記事やメディア各社との共同企画にも取り組んでいる。にもかかわらず、編集方針は不透明で、今回の措置についても何ら説明をしていない。

 既に述べたようにコメント欄の非表示を引き起こしている媒体は週刊誌やスポーツ紙だけではない。理由が不明なまま対象が拡大していく可能性もあるし、配信解除などをちらつかせながら、ヤフーに都合が良い記事を掲載し、都合が悪い記事を排除しても、読者からは分からない。インターネットのニュース流通に大きな影響力を持つヤフーはニュースを選別し、世論を操作することも可能だが、責任は徹底的に回避する。

ヤフコメの影響を受けたという容疑者

 現実問題として、ヤフコメは事件を引き起こす要因にもなっている。

 2021年8月に在日コリアンが集住する京都府宇治市ウトロ地区で起きた放火事件では、京都新聞やバズフィードジャパンが、容疑者がヤフコメに影響を受けたと主張していると報道している。京都新聞の記事(2022年5月14日)の一部を引用する。

男によると、犯行を思いついたのは、事件の10日ほど前。地区の歴史を伝えて多文化共生を目指す「ウトロ平和祈念館」が開館予定という記事を、ヤフーニュースで読んだことだった。
記事のコメント欄に「なぜこういう施設ができるのか」「なぜ日本にこういう人たちがいるのか。日本から出て行け」といった書き込みがあり、賛同を示す「いいね」の反応が数千件ついていたといい、「事件を起こす上で指標の一つとなった」と話す。

 バズフィードジャパンの記事(2022年4月15日)では、容疑者がヤフコメを客観的だと強調し、「偏りのない日本人の反応を知ることができる場だと思っていました」「日本のヤフコメ民にヒートアップした言動を取らせることで、問題をより深く浮き彫りにさせる目的もありました」と主張したことを紹介している。

 これらの記事を読めば、ヤフーに配信する記事が問題ではなくコメント欄が問題であることは明らかだ。だが、ヤフーは媒体に責任を求めている。そして、このような対応に対する疑問はほとんど報じられていない。その理由は、プラットフォームに生殺与奪を握られてしまっているためだ。

 筆者は長らくプラットフォームの問題を指摘してきたが、「よく言ってくれました」「直接言いにくくて」など後で打ち明けられることがある。「批判したら、ヤフーがうちの記事を取り上げてくれなくなると困る」という直接的な擁護の声を聞いたこともある。だからヤフー側の反応は「そんなに問題にするのは藤代さんなど一部だ」となる。

 ネットにおける差別発言や誹謗中傷は、取り上げているという意見もあるだろう。仮にその記事をヤフーに配信すれば、コメント欄には既存メディア批判があふれるだろう。利用者は、過激なコメントを誘発する媒体が悪い、という結論にたどり着く。このようなヤフコメの構造を是正しない限り、媒体はこれからもプラットフォームの責任を押し付けられることになるだろう。

<執筆者略歴>
藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)

法政大学社会学部メディア社会学科 教授 / ジャーナリスト
​法政大学大学院 メディア環境設計研究所 所長

1973年徳島県生まれ。広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期課程修了。1996年徳島新聞社に入社。社会部で司法・警察、地方部で地方自治などを取材。文化部で、中高生向け紙面のリニューアルを担当。2005年goo(NTTレゾナント)。gooラボ、新サービス開発などを担当した。関西大学総合情報学部特任教授(2013-15年)。専門は、ジャーナリズム論、ソーシャルメディア論。ゼミテーマは、ソーシャルメディア時代の「伝え方」の研究と実践。著書に『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社)、編著に『ソーシャルメディア論 つながりを再設計する』(青弓社)『地域ではたらく「風の人」という選択』(ハーベスト出版、第29回地方出版文化功労賞・島根本大賞2016)など。

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