視聴者の声~はやり言葉の扱い方
【すぐに消え去るもの、意外に定着するもの、新しい言葉の取り扱いは難しい。あなたは「ばえる」を使いますか?】
村田典子(TBSテレビ視聴者サービス部)
新年、巷では2022年に流行りそうな○○が話題になり、様々な番組で競うように取り上げられる。私も昨年はマリトッツォを流行りのスイーツとして一早く番組で取り上げたが、当初、2021年を代表する流行語のひとつに選ばれるほど市民権を得るとは思わなかった。言葉が市民権を得るとはどういうことなのか?先日、視聴者からこんな意見が届いた。「ばえるという流行(はやり)言葉をアナウンサーが使うのはどうなんでしょうか?正しい日本語を使って欲しいものです」。
Z世代の娘を持つ筆者にとって「ばえる」は既に市民権を得たと思えるほど普段周りでよく聞く言葉だったが、改めてテレビを見て下さっているのは様々な方々なのだと気づかされた。
視聴者の皆さんから言葉遣いについてのご指摘を受けた場合、直ぐに間違いと判明するものもあれば、検討が必要なものもある。移り行く時代の中で幾通りかの使い方をするものが存在するため、言葉の正しい使い方に関しては社内の編成考査局の会議で常日頃から議論し検討をしている。そしてTBSとしてこの言葉は今どう使うべきかということを制作現場などと共有しているのだ。特にアナウンサーがニュースで発する言葉には注意しており、一番正しい使い方が出来るよう意識している。間違った使い方が多くなされ、それがいつの間にか市民権を得るということに繋がってしまう可能性も秘めているからだ。
さて、「ばえる」に話を戻そう。インスタグラムをはじめとするSNSにアップするために写真映えする物や様子を撮ったり、写真そのものを加工して盛ったり(盛る、この言葉も流行り言葉か)することが若い人たちの間では日々当たり前のように行われているが、そもそも「ばえる」は「見栄えがする」や「インスタ映えする」から来ている言葉だ。正に流行語から日常の言葉に移行している時期なのだろう。
以前このコラムでも書いたが、言葉は生き物なので時代の流れの中で突然誕生したり、元々あった言葉の使われ方が変わって来たりするものである。流行語はいつの間にか使われなくなることが多い一方で、市民権を得て普段から使われるようになる言葉もある。例えば「アラフォー」という言葉はTBSの連ドラと共に広く使われるようになり、その年の流行語の賞にも選ばれた。もとはアパレル業界で使われていた言葉だと聞いたが、ドラマのヒットを期に市民権を得て誰もが使う言葉となった。今では老若男女が「Around ○○」を略してアラフォー、アラサー、アラフィフ、派生してアラカン=Around還暦と日常的に使っている。
英語でも同じようなことがあって、最近では日本の人気バンド名にも使われている「awesome」という単語。アメリカで「すごい!」とか「ヤバい!カッコイイ!」「超いい」的な意味で使われているが、もとは80年代にカリフォルニアのおしゃれでリッチなティーンが使いだしたスラング、いわゆる流行語だった。テレビや映画で見聞きして、憧れの気持を抱いた全米の若者が使用したことで、流行のファッションのように広がり、いつの間にか市民権を得て、今では誰でも普通に使うようになったという言葉だ。さらに言えば、awesomeは「畏怖の念を抱かせる」という意味の言葉として実はずっと前から辞書には存在していた。今日のように日常に頻繁に軽く使用されるような言葉ではなかったものが、時代を経て使われ方や意味が大きく変わってきたという一つの例といえる。
さて、今年はどんな新しい言葉が出現するのだろうか?最近のZ世代の間では日米ともにレコードに関心があったり、日本では昭和レトロブームが再燃、海外でも日本のシティポップに注目が集まったりして、彼らを通じてKARAOKEやMOTTAINAIのように、世界共通語になる日本語が増えるかもしれない。先が不透明な2022年は始まったばかりだが、従来からある日本語のみならず、今日初めて聞く言葉が、もしかしたら10年後、20年後、もっと先まで使われることになる可能性もある。また、そんな言葉になるきっかけにテレビが大きく関わることも少なくないと思うと、ワクワクすると同時に、言葉の使い方に対するご意見には、今年も真摯に丁寧に向き合っていきたいと改めて思う。
<執筆者略歴>
村田典子(むらた・のりこ)
1965年生、1989年TBS入社、
ラジオニュース、ラジオ制作、情報番組プロデューサー、宣伝部長などを経て
現在、視聴者サービス部長
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