データからみえる今日の世相~「主婦」をめぐる考え方の移り変わり
【「主婦も職業を持つべき」「主婦は家事に専念すべき」この2つの考え方の比率はどう変わってきたか】
江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)
このコラムでは、JNNデータバンクという調査データの分析結果を紹介することが多いです。
JNNとは、TBSテレビをキー局とするテレビの全国ネットワーク「Japan News Network」の略称。そのJNN加盟局が、1970年代から毎年「JNNデータバンク定例全国調査」という大きな調査を行っています。
半世紀近く続いている調査ですが、その中には初期の頃から同じ文章のまま、表現を変えないようにしている質問や回答選択肢も多くあります。そうすることで、その項目への回答の変化がずっと追跡できるからです。
そうしたものの中に、「主婦のあり方」に関する以下の2つの選択肢があります。ちょっと文章が長いので、以後は前者を「主婦も職業」、後者を「主婦は家事」と略します。
「これからの主婦は自分でも職業をもって働いたほうがよいと思う」
「主婦はやはり家事に専念して家庭を第一に考えるほうがよいと思う」
これらは「自分にあてはまるもの」をいくつでも選ぶという質問の中で、他の選択肢と一緒に示されます。形式的には両方選ぶこともできますが、大抵はどちらか一方を選ぶことが多いようです。
さて、もしあなたがJNNデータバンクの回答者になったら、この選択肢をどう選びますか?
筆者(50代男性)は第一印象で、今どき「主婦も職業」が当たり前で、「主婦は家事」なんて思う人はいないだろう、と考えました。
長らく女性の社会進出が言われているので、さすがに口では「主婦も職業」と答えるのではないか、というのが筆者の読みです。
しかし、世界的に見て日本の男女格差はまだまだ改善していません。
昨年(2021年)3月にスイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」が公表したジェンダーギャップ指数(各国の男女格差を示す指標)によると、日本の順位は156カ国中120位、主要7カ国(G7)で最下位(21年4月1日、毎日新聞)でした。
さて果たして調査結果は筆者の読み通りでしょうか。それとも……?
今どきの「これからの主婦」のあり方とは?
先に示した2つの選択肢は1975年から採用されており、現時点で最新調査の2021年まで、実に46年分のデータが蓄積されています。
その推移をまとめたのが次の折れ線グラフです。
これを見ると、ごく初期こそ2つの意見が拮抗したものの、「主婦は家事」は最初の75年がピークで、以後ずっと減少の一途をたどっています。
一方、「主婦も職業」は80年代前半まで4割弱で、男女雇用機会均等法が制定された85年頃から増加。90年代半ばに5割前後に達してそのまま横ばいという推移です。
現在は「主婦も職業」のほうが圧倒的に多い、ということで筆者の読みも一応当たっていたと言えそうです。
しかし「主婦は家事」が減少の一途をたどっているように、「主婦も職業」が増加の一途なのかと思いきや、そうでもないところが気になります。
では、一体誰が「主婦も職業」を選んでいて、それは昔と今で違ったりしているのでしょうか?
その疑問に答えるために、「主婦も職業」回答者の性年代内訳を75年から5年ごとに集計してみたのが次の帯グラフです。
例えば75年では、調査対象者全体(3,096人)に対して、「主婦も職業」回答者が女性では若年層(10~20代)10%・壮年層(30~50代)13%、男性では若年層5%・壮年層6%で、合計が全体の34%になっています。
これを見ると、85年頃までは女性:男性が2:1くらいの割合でしたが、90年代以降、男女ともに壮年層の割合が増えています。
一方、若年層は男女とも90年代後半~00年代前半頃は1割前後いるものの、ここ最近はむしろ数が微減しているように見えます。
若年層の占める割合が減っている、というとピンとくるのが「少子高齢化」の影響です。
まさか若年層で「主婦も職業」の支持率が下がるとは考えにくい。
むしろ、世界に冠たる高齢社会・日本では若年層人口が減りつつあるから、「主婦も職業」支持者に占める割合も減っているのではないか、という仮説はどうでしょうか。
それを確かめるために、今度は性年代の区分ごとに「主婦も職業」の支持率の推移を折れ線グラフにまとめてみました。同じ性年代区分の中で支持率を追いかけるので、人口増減の影響を取り除くことができます。
さて、これを眺めると意外や意外。
女性も男性も、若年層の「主婦も職業」支持率は00年代前半にピークがあり、ここ5年くらいはそれよりやや低い水準で推移しています。
若年層で「主婦も職業」支持が下がっている―。一体これをどう考えたらよいのでしょうか。
最初に示したように、これと対になる「主婦は家事」という意見は減少の一途をたどっているので、専業主婦志向への回帰ではなさそうです。
なかなかこれといった明確な答えは探しづらいのですが、一つのヒントとして考えたのが、若年層にとって「主婦」とは縁遠い存在なのではないか、ということです。
次の折れ線グラフは、中学・高校生を除いた女性若年層のうち、自分の職業を「主婦」と答えた人の割合の推移を示したものです。
なお「主婦」の選択肢には、93年まで「主婦に専念している者」、94年から「パートで働いている方を含む」という注がついています。つまり、この選択肢は93年までが「専業主婦」、94年以降は「パート就業者を含む主婦」を表しています(注)。
これを見ると、70年代は女性若年層の4割程度が「主婦」でしたが、最近では1割程度まで減少しています。
大学進学率や就業率が高まった最近の女性若年層には、若くして「主婦」になる選択肢は身近ではないように思います。
そのため「これからの主婦はどうあるべきか」「主婦になったらどうするか」といった問題意識はピンときていないのかも知れません。
男性若年層が輪を掛けてピンときていないのは言わずもがな、なのかも。
女性も男性も誰もが働き、そして家事・育児を行う世の中になれば、「主婦」という存在そのものがなくなっているかも知れません。
「主婦も職業」「主婦は家事」という主婦のあり方への意識は、この先どうなっていくでしょうか。もうしばらく、この選択肢での調査を続けて、その成り行きに注目していきたいと思います。
注:1993年以前では、90年10月だけ「主婦(パートで働いている主婦を含む)」という選択肢で調査しています。
<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。
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