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高等学校情報科とその入試

【2025年の大学入学共通テストから「情報」が必須となった。否定的な意見もあるが、その誤解を解く。さらに現在高校で教えられている「情報科」の内容とその将来的課題は】

西田 知博(大阪学院大学教授)

共通テストに「情報」が出題

 2024年度の大学入学共通テストへの「情報」の出題が決まり、2022年1月には国立大学協会から、すべての国立大学が大学入学共通テストにおいて「情報」を加えた6教科8科目を課すことが発表された。また、3月26日に東京大学は共通テストの利用科目に「情報I」を含めることを公表した。
 
 これに対して、ネット上では「ワード・エクセルの使い方を試験するの?」「情報をペーパーテストしても意味がない」「暗記問題になるのではないか」など否定的なコメントが多く見られた。また、「時期尚早」や「拙速」などの声も上がっている。

 しかし、これらのコメントや反対論は的外れで多くの誤解が含まれていると考える。ここでは、それらの誤解を解くために、高等学校で教えられている情報科とはどういうものか、また、その入試がどのようなものになるのかを紹介していきたい。

高等学校情報科とは

 情報科は、2003年度実施の学習指導要領から高等学校に新設された教科である。文部科学省によってまとめられた情報活用能力の3観点「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」に基づき、それぞれを主として学ぶ各2単位の「情報A」、「情報B」、「情報C」の3科目が普通教科(現在は共通教科)として置かれた。

 生徒は、そこから最低1科目を学ぶという選択必履修科目であったが、多くの学校ではどれか1科目のみを置き、生徒自らが選択できる形にはなっていなかった。また、高校入学までにコンピュータ、ネットワークやソフトウェアの利用に関して学ぶ機会が多くない状況であったので、多くの高校では情報活用のための実習が半分以上となるように規定された「情報A」のみが開設されていた。

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 その後、2013年度実施の学習指導要領では、情報活用の実践については中学校までで一定の内容を学ぶようになったという判断から、実践力をベースに科学的あるいは社会的な内容を深く学ぶための「情報の科学」「社会と情報」の2科目に再編された。しかし、ここでも2つの科目は選択必履修科目であり、「社会と情報」が多く履修されていた。

 2022年度から実施された指導要領では、情報科学の比重を高めた必履修の「情報I」と選択科目の「情報II」に再編された。これにより、すべての高校生が「情報I」という共通した科目を学ぶことになった。「情報I」で学ぶ内容は以下の項目である。

情報社会の問題解決
「問題の発見・解決」、「法規・制度、情報セキュリティ、情報モラル」「情報技術が果たす役割と影響」

 コミュニケーションと情報デザイン
「メディアとコミュニケーション手段の科学的理解」、「情報デザインの役割の理解」、「効率的なコミュニケーションを行うための情報デザイン」

コンピュータとプログラミング
「コンピュータの仕組み」、「アルゴリズムとプログラミング」、「モデル化とシミュレーション」

 情報通信ネットワークとデータの活用
「情報通信ネットワークの仕組み」、「情報システム」、「データの収集、整理、分析、表現」

 「情報I」が必修科目となったため、すべての生徒が高校においてプログラミングを学ぶことになる。プログラミングに関しては2020年度から小学校で必修化され、算数などの教科内でプログラミングを体験しながらコンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動が取り入れられている。

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 また、中学校の技術・家庭科(技術分野)では、2012年度から計測・制御のプログラミングを学ぶこととなり、2021年度からは「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」等についても学ぶこととなった。そのため、「情報I」でのプログラミングは「関数の使用による構造化」など「情報の科学」で扱った内容よりもより深い内容となっている。

 また、「データの活用」が1つの柱となり、数学Iの「データ分析」(統計)の内容と連携して、データサイエンスの基礎を学ぶ内容となっている。さらに、今回の学習指導要領では、従来の「知識・技能」に加え、「思考力・判断力・表現力」を身につけることが求められているが、「情報I」は情報社会の問題解決のため、プログラミングやデータ分析を用い、情報デザインを理解した上で表現するといった、文系理系を問わずICT社会で必要となる幅広い能力を育む内容となっている。

 一方、これらの内容は2単位(週2コマで1年間)では深く学ぶことは出来ないので、「情報I」で学んだ基礎の上に、問題の発見・解決に向けて情報システムや多様なデータを適切かつ効果的に活用する力や、コンテンツを創造する力を育む選択科目「情報II」が設置されている。

情報科の入試

 冒頭でも書いたが、大学入学共通テストでの出題が決定したことに対し「時期尚早」や「拙速」などの声が上がっているが、本当にそうだろうか?

 大学入試センターは、1997年に専門学科の生徒に向けて「大学入試センター試験」の数学②の選択科目として情報関係基礎を設置し、後継となる共通テストでも出題が続いている。これらの問題は、大学入試センターの許諾を得て情報処理学会情報入試委員会が作成した「情報関係基礎 アーカイブ」において見ることができる。

 2003年の情報科設置の際にセンター試験で「情報」を出題教科にするか検討されたが、選択必修科目であったことが一因となり出題教科とはならなかった。「情報関係基礎」は専門学科で学ぶ内容が出題範囲ではあるが、上記アーカイブの中にある「問題作成部会の見解」で書かれているように、普通教科の「情報」が出来てからはその内容も意識した作題を行っている。

 このように、大学入試センターでの情報に関する入試は25年、情報科が新設され、それを意識した作題も20年近く行われており、2025年から共通テストへの「情報」出題は拙速に行われるものではないことはわかっていただけるだろう。

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 2022年度センター試験の「情報関係基礎」の問題は以下のような内容になっている。

第1問(必答):コンピュータ・情報に関する基本的な事項を問う
 ICTや知的財産権に関する基本的な知識の理解や計算能力を問う問題が出された。この中では、情報デザインに関するピクトグラムの問題も出された。アナログ信号のデジタル化に関する問題は、長文の中の空欄に当てはまる語句、数、式を選ぶ形式であった。
第2問(必答):論理的思考力を問う
 長文の中で回文の性質を考えさせる問題で、文章を読んで理解し、それを元に論理的に考える力が問われている。「小池ケイ子さんは、なぜか回文が大好きで毎日回文のことばかりを考えている。」というユニークな設定で始まる問題で、前提知識がなくても文章の内容を順に理解することによって解くことが出来る。
 しかし、情報科学の分野で用いられる離散数学がベースとなる難易度の高い問題であり、読解力と論理的思考力が必要な良問である。
第3問(選択):プログラミングによる問題解決能力を問う
 順を追って、あみだくじを作るプログラムを作成する問題である。プログラムの記述には、「共通テスト手順記述標準言語 (DNCL) 」が用いられている。DNCLは特定のプログラミング言語に依存しない出題を行うために1998年の試験から使われている独自の言語である。
 言語仕様は、大学入試センターのWebページで公開されているが、日本語キーワードを利用することにより、前提知識がなくても問題を理解し解答できるものとしているので、仕様は問題に添付されていない。
第4問(選択):表計算による問題解決能力を問う
 競技データの分析を表計算で行うストーリーの問題である。第3問と並んだ選択問題であるので、セルの相対・絶対番地、条件式の利用などプログラミングと同等の難易度となるような問題となっている。
 また、分析から得られた結果、何がわかるかを問うており、データ分析の分野も含んだ問題となっている。なお、問題を解くために必要な表計算ソフトウェアの仕様は問題に添付されている。

 実際の問題を見ていただくとよりわかると思うが、単純な知識のみで解ける問題は少なく、多くが文章を読んで考えることが必要な問題である。共通テストの数学で問題文が長くなり難化したと話題になっているが、情報関係基礎の問題はそれを先取る、思考力を問うものであり、大学入試センターが公開しているサンプル問題を見ても、「情報I」の試験はそれを引き継いだものになると考えられる。

 個別入試に関しては、高知大学理工学部情報科学科が数学、物理と並べた選択科目として、慶應義塾大学の総合政策学部、環境情報学部が数学と並べた選択科目として「情報」を出題している。その他のいくつかの私立大学でも個別入試の科目として設定されているが、現時点でその数は多くない。

 しかし、共通テストと同様、新課程に対応して個別入試を始める大学も多くなると予想される。個別入試のためには出題のノウハウが必要になるが、 2012年に有志により「情報入試研究会」が設立され、試作を含め5つの試験問題を作成し、4回の「大学情報入試全国模擬試験」を行っている。

 また、2016〜2018年度に大阪大学、東京大学、情報処理学会が文部科学省大学入学者選抜改革推進委託事業『情報学的アプローチによる「情報科」大学入学者選抜における評価手法の研究開発』を受託し、2回の模擬試験を行っている。

 この事業の模擬試験では入試の新しい形を検討するため、コンピュータを使った試験であるCBTを利用した。その特性を利用した問題の1つとして、以下の図のようなブロックプログラミングエディタを用意し、解答したプログラムや手順を実際に動作させ、その結果を確認しながら解答できるようなものも出題した。

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 これらの模擬試験とその結果は個別入試を検討する上での大きな参考になるが、それらは情報入試研究会のページから参照できる。また、文科省委託事業の報告書には作題マニュアルも含まれている。

 また、情報処理学会学会誌のnote「教科「情報」の入学試験問題って?」もさまざまな著者がそれぞれ異なった視点から情報科の入試について書いているので、受験する側も含めて参考になるだろう。

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今後の課題

 ここまで読んでいただいたように、高等学校情報科は幅広い内容を扱い、その入試は決して「ワード・エクセルの使い方の試験」でも「暗記問題」でもない。それ故に、それを指導する教員が各学校に十分に配置されているかが問題となる。

 2単位の科目しか設置しない高校が多いため、情報科の教員の採用数が少なく、「臨時免許状」や「免許外教科担任」が特例的なものとして多用されている問題については電気通信大学の中山泰一教授などが指摘している。

 文科省もその問題を認識して2016年には高校情報の免許を持った教員の配置を促進するよう通知している。しかし、一部の自治体では配置が進まず、共通テストでの出題が見えてきて初めて採用を始めたところも多い。

 このような地域格差があるため、「時期尚早」との声も上がっているが、繰り返して書けば情報科が始まってすでに19年が経過しているので、教育体制を整える時間は十分にあったはずである。とはいえ、新課程の授業はもう始まるので、今から教員の採用を急激に増やすことは現実には難しい。そのため、現在、情報科を担当している教員のために文科省は教員研修資料を作成し、情報処理学会はそれに対応したMOOC教材を公開するなどサポートを行っている。

 教員不足に関しては民間企業などからICT人材を受け入れることや遠隔授業の活用などが検討されているが、本質的な解決にはならない。情報科の免許を持つ者が不足している訳ではなく、採用が少なかったことが教員不足の本質である。

 ICTを取り巻く環境は変化が早いため、情報の免許をもち、積極的に研修を受け、各学校に合った授業研究を行う教員により授業が行われることが望ましい。大学入試により教育の変革を促すことに批判はあると思うが、教育/学習の目標が明確になることのメリットは大きい。そのために現場にかかる負担は大きくなることが予想されるが、大学や学術団体(学会)はその負担を支えていくので、今後も連携をとって、よりよい方向に情報科が発展していくことを望む。

<執筆者略歴>
西田 知博(にしだ・ともひろ)
大阪学院大学情報学部教授。1968年大阪府生まれ。1991年大阪大学基礎工学部情報工学科卒業。博士(情報科学)。1996年大阪大学情報処理教育センター助手。2000年大阪学院大学情報学部講師、准教授を経て2018年より現職。2020年から情報処理学会理事もつとめる。プログラミング教育、情報教育に関する研究に従事。近著は『情報入門』(培風館)。

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