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<シリーズ SDGsの実践者たち> 第11回 新築住宅の太陽光発電「義務化」と現状は

【都は、新規住宅を建てる事業者に太陽光発電設備の設置を義務付ける。費用負担など賛否両論あるが、実施されたとしても本来の目標に達するかは不透明だ】

「調査情報デジタル」編集部

 「新築の住宅について、太陽光発電の設置の取り組みを推進していく」

 東京都は2022年5月、新築の住宅を建てる事業者に対して、太陽光発電設備の設置を義務づける方針を明らかにした。義務化されるのは年間2万平方メートル以上の住宅を供給する事業者で、約50社程度が対象になる。個人が購入する住宅に設置を義務化するのは全国初だ。

 背景にあるのは、東京都が2030年までに温室効果ガスの排出量を2000年に比べて半減させる、カーボンハーフを政策目標として掲げていること。さらにその先には、2050年にカーボンニュートラルを実現する国の目標もある。

 東京都内の戸建て住宅の太陽光パネル設置率は、2016年から2017年にかけての調査ではわずか3.75%だった。都の担当者は「カーボンハーフやカーボンニュートラルを達成するには、今から取り組まなければ間に合いません。これから建てられる住宅に太陽光パネルを設置することで、2050年には設置済みの住宅が半数を超えると考えています」と話す。

 義務化の方針は賛否両論の議論を巻き起こしている。最も懸念されるのは、住宅を購入する人に費用負担がかかることだ。この点に関して都は「早ければ6年で回収できる」と説明する。

 「4kWの太陽光発電設備を設置する場合、初期費用は約92万円かかります。ただ、発電によって電気代は月に7700円、年間では92400円負担が軽くなりますので、設置費用は約10年で回収できます。また、補助金を活用すれば4kWでは40万円が補助されますので、約6年での回収が可能です。

 設備は購入する以外にも、リースや屋根貸しなどで初期費用なしでも導入できる方法があります。義務化では初期費用ゼロでの設置も対象にしたいと考えております」

義務化しても目標には届かない?

 設置義務化について都がパブリックコメントを募集した結果、個人や団体から3714件の意見が寄せられ、賛成が56%、反対が41%だった。今後は環境審議会が最終答申をまとめ、義務化を盛り込んだ条例改正案が議会に提案されることになる。周知期間などを考慮すると、条例の施行は早くても2024年度の見込みだ。

 ただ、住宅への設置義務化によって脱炭素の目標が達成できるのかと言えば、必ずしもそうではない。

 都が想定しているのは、各事業者が年間に供給する棟数の約85%に、1棟あたり2kWの設備を義務量として設置すること。その際、どの建物に設置するのかは事業者が柔軟に決定できる。住宅を購入する人の意向に配慮することも条例に盛り込まれる見通しだ。

 条例が施行されると、住宅1棟に設置される太陽光発電設備は平均5kWなので、85%の約半分となる42.5%程度の新築住宅に設置すれば、義務量は達成されることになる。ただ、義務化の対象となる50社が手掛けるのは、都内の新築住宅の約半分程度なので、実際には新築全体の20%程度にしかならないといった指摘もある。

 国も2030年に新築住宅の60%に太陽光パネルを載せる政策目標を掲げてはいる。しかし、東京都が義務化しても目標には届かないのに、どのように政策を実現するのか、そのロードマップは全く描かれていないのが実情だ。

住宅への太陽光パネル設置件数は約10年で半減

 一般社団法人太陽光発電協会では、住宅用の太陽光パネルの全国の設置率を2021年の時点で10%強と推計している。年度ごとの導入件数は、東日本大震災の翌年の2012年度がピークで、27万2000件だった。

 ところが、現在の導入件数はピーク時の約半分にとどまっている。2017年度から2020年度の平均では年間14.3万件で推移した。新築住宅の着工件数は減少傾向にあるので、何もしなければ今後導入件数も減っていくことが予想される。

 導入件数が半減した理由はいくつか考えられる。一つは、発電した電力の固定価格買取制度(FIT)の売電価格が下がったことで、導入への興味が薄れている可能性があることだ。

 10kW未満の住宅用太陽光発電設備の売電価格は、2009年度は1kW当たり48円だった。FITでは10年間は同じ価格で売電できることもあり、導入件数は大きく増加した。

 一方で、売電価格は年々下がり、2022年度は17円に設定され、翌年度は16円になる。大幅に下がったイメージが強いのは確かだ。ただ、売電価格は発電設備の導入価格を勘案して設定されていて、2009年度に比べれば、発電設備の導入コストも同様に大幅に下がっている。

 また、自家消費することを考えれば、電力会社から購入するよりも安く電力を手に入れることができる。この点は新型コロナ後の化石燃料の世界的な需要拡大や、ロシアによるウクライナ侵攻の影響、さらには円安によってエネルギー価格が高騰するなかで、今後見直される可能性がある。

温室効果ガスを削減できる身近な方法

 導入件数が半減しているもう一つの理由は、太陽光発電に対してマイナスのイメージを持つ人が少なくないことだ。

 FITが事業用太陽光発電を対象に加えた2012年度以降、導入量は飛躍的に伸びた。2019年度には国内の発電量の18%を占める再生可能エネルギーの中で、太陽光は37%を占めるなど主要なエネルギー源になった。日本の太陽光発電設備容量は、世界第3位の規模を誇る。

 しかし、太陽光発電が拡大する過程では、平地だけでなく山林などを切り開いて乱開発されるケースも増えた。環境を破壊し、土砂崩れなどの原因になるといった批判の声も挙がっている。

 こうした大規模な太陽光発電設備に比べて、住宅の屋根に太陽光パネルを置くだけであれば、環境破壊にはつながらない。化石燃料を使用せずに発電ができることに加え、4kWの太陽光パネルを設置するだけでも、約2000平方メートルもの広さのスギ林が吸収するのと同じ量の二酸化炭素を削減できるなど、脱炭素への貢献度は大きい。

 太陽光発電協会では「太陽光発電で全てを解決できるとは思っていませんが、二酸化炭素を減らすための解決策としては最も身近な方法だと思っています」と話している。脱炭素化を本気で進めるのであれば、東京都が義務化を打ち出したことを契機に、住宅用の太陽光発電について国を挙げた議論がもっと必要ではないだろうか。

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