<シリーズ SDGsの実践者たち> 第22回 余った建築資材「廃棄」から「シェア」へ
「調査情報デジタル」編集部
新品なのに廃棄処分
屋根や外壁などの金属外装工事を手がけている埼玉県朝霞市の八塩板金工業。倉庫の中を見せてもらうと、さまざまな建築資材が大量に保管されている。しかし、これらの資材はすぐには使い道がないものだと社長の八塩雄一さんは説明する。
「この金具は雪止めといって、屋根につけて雪が落ちるのを止める金具です。新品の状態でこれだけ余っていますが、色や形が合う現場が出てこないと使い道がありません」
「これは雨樋を設置するための金具です。一つでも足りないと現場の工事はストップします。必要としている業者はあると思うのですが、自分の現場では合う工事がないためにたまってしまっています」
他にも屋根の隙間を塞ぐ資材や、長さ6メートルもある屋根材など、大量の資材が倉庫に眠っている。
これらの資材は、すべて工事現場で余った未使用のものだ。いつか使い道がないかと保管しているものの、最終的には自費で廃棄処分をしなければならない。八塩板金工業では年間100万円の費用をかけて、新品の資材を産業廃棄物として処分してきた。
「建築資材は不足すると困るので、少し余裕を持って発注します。仕様が変わったり、発注ミスがあったりして、大量に余る場合もあります。いつか使えると思って保管していると倉庫の場所がなくなって、結局は廃棄処分するしかありませんでした。
40年以上建設業に関わってきて、この建築資材のロスは長年抱えてきた悩みです。私だけでなく、中小の業者が抱える共通の悩みだと思い、解決策はないかと考えてきました」
余った建築資材をマッチング
建築資材のロスを減らそうと八塩さんが考えたのが、余った建築資材をマッチングするサービスだ。「ノコッタ」と名付けたインターネットのサイトを、2022年11月にオープン。会員登録をすると余っている資材を出品できるほか、必要な資材を一覧から探すことができる。
資材の取引は無料でも有料でもできる。八塩さんは倉庫にある資材の多くを無料で出品している。さらに、会員登録や資材の出品、取引手数料などの費用は全て無料にした。
「ノコッタの目的は、みんなで協力して、お互いの在庫を減らすことです。これまではまずメーカーに資材を発注して、足りなければまた発注して、結局余らせてしまうことがほとんどでした。
それが、発注する前にノコッタで余った資材を探してから、足りない分を発注することが当たり前になれば、各業者の在庫も廃棄コストも減らすことができます」
国土交通省が5年に1回実施している建設副産物実態調査によると、2018年度の建設廃棄物の搬出量は約7440万トン。前回調査より約2.4%増加した。建設資材の廃棄物は工事の元請け業者が処分することになっていて、リサイクルを進めることで最終処分量は約212万トンと、前回調査より約26.9%減少している。
ただ、余った板金資材や屋根材、外壁材などの端材については、保管や処分を下請けの工事業者が担うことが多い。余った建築資材は、数字に現れていない産業廃棄物ともいえる。しかも、新品同様の資材を廃棄することには「罪悪感も感じる」と八塩さんは話す。
「フードロスの取り組みはよく知られていますが、建築資材の廃棄物は食品よりも量が膨大です。しかも、新品の資材が毎年大量に処分されています。私たち業者も金を出して買ったものを、使わないまま捨てたくはありません。みんなの倉庫をつなげて、業界で無駄をなくしていくことができればと思っています」
課題は業者の輪を広げられるかどうか
ノコッタの取り組みを知ってもらおうと、八塩さんら有志10社は余った資材をシェアするイベント「“中小企業×SDGs”余剰資材感謝フェア」を、2023年5月に朝霞市で初めて開催した。
ノコッタの会員は、現在は業界関係者や商工会の建設部会などに呼びかけて集めている。その結果、半年間で埼玉県内の100社以上が登録。関東を中心に全国で約250社が登録した。会員の所在地はノコッタのサイトで確認できる。
ただ、資材のやりとりは輸送コストなどを考えると、近くの業者同士で行うのが現実的だ。関東以外で本格的に機能するには、各地域でそれなりの数の業者に登録してもらわなければならない。
また、「ノコッタ」の収入はホームページの広告収入だけで、現在は赤字だ。会員が増えることでホームページを閲覧する回数が増えなければ、維持するのは難しい。会員を増やすことが最大の課題だ。
「ビジネスモデルとしては破綻していると思いますが(笑)、感覚的には会員が全国で1万社くらいになれば、業界を変えていくことができて、結果的にインターネットのサーバー代くらいはまかなえるのではないかと思っています。
また、現状では建築業界中心で進めているものの、製造業や小売業にも使える資材があると思います。将来的にはメーカーとも協力していくことが理想です。一生懸命開発して作った資材を最後の最後まで使ってもらえたら、メーカーも嬉しいのではないでしょうか」
会員はあくまで事業者に限定している。匿名ではなく事業者として登録することで、転売などのトラブルを防ぐことにつながる。それ以上に期待できるのは、これまでつながりがなかった同業者と、新たなネットワークができることだ。
実際にこんな事例があった。ある工事現場で資材が一つ足りなくなったところ、メーカーに問いあわせると入荷まで1週間かかると言われた。入荷を待っている間は工事ができなくなってしまう。その業者が「ノコッタ」で資材を探したところ、すぐに見つかったのだ。
「1週間も工事が止まったら大変なことになります。それが、すぐに必要な資材が見つかったことで、その日の夕方には現場に資材を届けることができました。こうした資材のやりとりを通じて同業者がつながっていくと、新たなビジネスチャンスも生まれるのではないでしょうか。みんなの倉庫をつなげながら、ネットワークを広げていきたいですね」
現場で残った資材が、どこかの現場で役に立つ。建設資材ロスの削減を目指す中小企業の取り組みは始まったばかりだ。
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