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<シリーズ SDGsの実践者たち> 第18回 脱プラスチックのきっかけを生む「草ストロー」

【プラスチック製ストローよりはるかに環境に優しい草ストロー。その誕生のきっかけは二人の青年のまったく偶然の出会いだった】

「調査情報デジタル」編集部

 緑色で茎の中が空洞になっている植物。1本1本太さが違うものが並んでいる。これはベトナムで栽培されているカヤツリグサ科の植物レピロニアから作った草ストローだ。

草ストロー

 レピロニアの特徴は耐久性があること。乾燥した状態だと割れることもあるが、水分を含むと強度が増す。口当たりも良い。植物なので天然の素材であるとともに、栽培や製造の過程でも化学物質は一切使っていない。プラスチック製のストローよりも圧倒的に環境に優しいストローだ。

 このストローを販売しているのは、日本人の兄弟とベトナム人男性の、いずれも20代の若者3人が立ち上げたHAYAMI。ベトナムのホーチミン郊外で栽培されているレピロニアを原料に、現地のパートナー工場で洗って、乾燥させ、UV殺菌まで施して製品化。2020年5月に起業して、現在は北海道から沖縄まで全国250のカフェなどに納入している。

ベトナムで栽培されているレピロニア

きっかけは飛行機の中での出会い

 草ストローを開発したきっかけは2018年、当時中央大学の学生でバックパッカーをしていた大久保迅太さんが、成田発ハノイ行きの飛行機で日本に留学していたベトナム人のMINH HOANGさんと出会ったことだった。隣の席に座った2人は意気投合し、大久保さんは日本とベトナムを行き来するようになる。

大久保迅太さん(左)とMINH HOANGさん

 すると、出会いから約1年後、MINHさんからベトナムに植物から作る草ストローがあることを聞いた。この話に、もともとSDGsに貢献するビジネスをしたいと考えていた大久保さんが興味を持った。

 「草ストローは日本では見たことも聞いたこともないものです。ただ、ベトナムで使われてはいるものの、品質も悪く、製品と言えるレベルには達していませんでした。

 当時、私は海外のスタートアップをリサーチする企業でインターンをしていて、同世代の若者が世界でSDGsや環境に貢献するビジネスを立ち上げていることを知っていました。日本ではまだSDGsは広く知られていない状況だったので、草ストローをビジネスにできないかと考えたのがはじまりです」

 UNEP(国連環境計画)による2018年6月の報告書では、国民1人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量を国別で比較した場合、日本はアメリカに次いで2番目に多いことが明らかになった。

 日本がプラスチックゴミ大国だと知った大久保さんは、草ストローを製品化し、プラスチック製のストローの代わりに使ってもらうことで、プラスチックごみの削減と途上国支援を同時に進めることができるのではないかと考えた。

 大久保さんは東京農業大学の学生だった弟の夏斗さんを誘い、MINHさんと3人で2020年5月にHAYAMIを起業。そのタイミングで新型コロナウイルスの感染拡大が始まった。大学の授業が開かれなくなったこともあり、夏斗さんが代表となって草ストローの販路開拓が始まった。

大久保夏斗さん

値段はプラスチックの6倍以上でも理解進む

 ただ、起業前の2020年2月にサンプルを作ったものの、最初はなかなか受け入れてもらえなかった。その大きな理由は価格の高さだった。草ストローの1本の価格は6円から7円。プラスチック製のストローは0.5円から1円なので6倍以上も高かった。1本が2円から3円の紙ストローと比べても倍以上の価格だ。

 また、草ストロー自体を誰も知らなかったため、まずは知ってもらうことから始めなければならなかった。とはいえ、若者3人での起業だったため、広告を出す資金もない。そこで、インターネット上にサンプルの申込みフォームを作って、インスタグラムなどで情報を発信。アンケートに答えてくれた企業に無料でサンプルを送った。

 すると、環境への意識が高いオーガニックカフェなどから反響が出始めた。ターゲットを絞ってアプローチすると、約半年で納入先は100か所を超えた。メディアなどにも取り上げられるようになったことで、認知度も徐々に高まり、2023年2月時点の納入先は全国250か所に拡大。オーストラリアにも出荷を始めている。

 付加価値を付ける取り組みとして、草ストローに店舗や企業名などをレーザー刻印するサービスも始めた。刻印することによってカフェ以外にも、住宅メーカーや自動車のディーラーのノベルティといった新たな用途も生まれた。

文字をレーザー刻印した草ストロー 

 このレーザー刻印と梱包は、HAYAMIが会社を置く神奈川県相模原市にある、障害者の就労支援施設に委託している。その理由を大久保さんは次のように説明する。

 「障害者雇用で農作物の袋詰めなどの仕事がありますが、中にはもっと繊細な作業を得意としている方もいます。障害のある人も、仕事をするのであれば社会に貢献できる仕事をして、いろいろな技術を身につけたいと思っています。そこで、私たちが購入したレーザー刻印の機械を施設に置かせてもらって、他の製品にも応用できる技術を身につけてもらえればと考えています」

サボテンやパイナップルで作る革製品も開発

 大久保さん兄弟とMINHさんが起業するにあたって掲げたミッションは、社会に対して良い影響を与える製品やサービスを提供する「ソーシャルグッド」をやり続けることだった。小さなソーシャルグッドでも、回り続けることで変化が起きていく。

 実際に草ストローを開発したことで、年間で数百万本ものプラスチック製ストローが使われなくなったことは確かだ。その効果を広く知ってもらうために、削減されたプラスチックの廃棄量や二酸化炭素の数値を現在計算中だ。

 また、草ストローで得た利益をもとに、環境に優しい製品をファッションの分野でも提供しはじめた。2021年3月に立ち上げたのが、ヴィーガンレザーのブランド「Re:nne」。夏斗さんが留学しているメキシコでサボテンを粉末にする特許技術を持つベンチャー企業と、東京の老舗企業の革職人とともに、サボテンレザーの財布を開発した。サボテンの栽培は水を消費しないので環境への負荷が少ない。

サボテンレザーの財布

 さらに2022年12月には、パイナップルの廃棄物を使ったパイナップルレザーの財布の販売も始めた。残渣をレザーにする技術を持っている国内のベンチャー企業と一緒に開発し、ファッションYouTuberがデザインを担当している。意識したのはデザインとサステナブルの両立だ。

パイナップルレザーの財布

 「エシカルな商品は既に存在していましたが、エシカルということだけが強みで、デザイン性や機能性はあまり重視されず、価格が高い製品が目立っていました。サボテンレザーやパイナップルレザーの商品を開発したのは、未来を担うZ世代が『かっこいい』『可愛い』と思って選んだものが、結果的にサステナブルな製品だったらいいなと考えたのがきっかけですね」(大久保迅太さん)

 大久保さんは草ストローやサボテン、パイナップルのレザーの事業を広げると同時に、ソーシャルなプロジェクトに関わりたい企業や個人がつながることが出来る「SUKETTO WORK」というプラットフォーム事業も計画している。

 その背景には、実態がないのにSDGsに取り組んでいると見せかけるSDGsウォッシュが国内でも散見されることがある。ソーシャルビジネスを広げていくことで、消費者の意識が変わり、企業も変わっていくと考えているからだ。

 「SDGsウォッシュをなくしていくためには、消費者側のリテラシーが重要です。消費者をだませると思うから企業はSDGsウォッシュをします。それに対して消費者がリテラシーを持てば、ごまかしは効かなくなります。

 そのためにもSDGsに取り組む製品のタッチポイントを増やして、生活の中で触れあう機会を増やしていくことが必要です。飲み物を頼んで、緑色の草ストローが出てきたら『なぜこういうストローを使っているのだろう』と考えますよね。私たちの製品を通して、環境について考えるきっかけが生まれればと思っています」

  レピロニアの栽培地(記事中の画像はすべて合同会社HAYAMI提供)

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chousa@tbs-mri.co.jp 


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