<シリーズ SDGsの実践者たち> 第10回 六ヶ所村と再生可能エネルギー
「調査情報デジタル」編集部
青森県の下北半島を南北に貫く、下北半島縦貫道路の南の起点から車を走らせると、しばらくして道路のそばに風力発電の風車が見えてくる。
次のインターチェンジで降りて一般道に入ると、巨大なタンクが数多く並ぶ場所が現れた。石油の備蓄基地だ。
さらに進むと、今度は道路の両側にある土地に、メガソーラーが広がっていた。周辺には、風車が取り囲むように立ち並ぶ。
ここは青森県六ヶ所村。下北半島の付け根に位置し、太平洋岸に面している。青森県最大の湖である小川原湖が他の自治体との境にあるほか、村内には5つの沼があるなど、自然豊かな地域だ。
六ヶ所村の名前は、村外はもとより、全国の多くの人に知られている。それは、原子力発電所の使用済み核燃料からプルトニウムなどを取り出す原子燃料サイクル施設、いわゆる「六ヶ所再処理工場」があるからだろう。
30年近くが経過しても完成しない再処理工場
かつての六ヶ所村は土地の利用が進まず、牛や馬の放牧のほか、わずかに農耕地があるだけだった。また、1956年からは入植による開拓事業により、酪農地帯が形成されていた。
それが一転して、国のエネルギー政策に巻き込まれていく。1969年にむつ小川原開発を含む新全国総合開発計画が閣議決定され、六ヶ所村を中心とする一体では、石油化学コンビナートや製鉄所などによる臨海工業地帯の整備が計画された。
ただ、計画は1970年代に起きた2度のオイルショックによって頓挫する。かわって全国初の国家石油備蓄基地が1980年に着工し、5年後に完成した。これが冒頭の備蓄基地だ。
同じ時期に、下北半島では原子力関連施設の様々な構想が浮かんでは消えていった。その中で、六ヶ所村で実際に進められたのが原子燃料サイクル施設だった。再処理工場は事業を行う日本原燃が1993年から建設を進めてきた。
しかし、トラブルが相次ぎ、当初は1997年に完成する予定だったが、未だに完成していない。完成延期は25回にのぼり、建設費は計画の約4倍となる3兆円以上に膨れ上がった。現在は2022年9月の完成が予定されているが、6月の時点では稼働の見通しは立っていない。
2000年代から再エネ発電所が集積
再処理工場が完成に至らない中、六ヶ所村には再生可能エネルギーの発電所が集積するようになった。まず増えたのは、大規模な風力発電所だ。
2003年以降、むつ小川原ウインドファームや二又風力発電所など、大型風力発電所の立地が相次いでいる。2022年3月と4月にも二つの大型発電所が稼働を始めた。こうした大型の発電所は8か所あり、設備容量の合計は約19万4000kW。風車は108基設置されている。それ以外に小型の発電所もあるが、数は把握できていない。
さらに、東日本大震災を受けて再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が導入された2012年以降は、太陽光発電が急拡大した。
出力が1000kW以上のメガソーラーは現在3か所ある。エネワンソーラーパーク六ヶ所村が2000kW、ユーラス六カ所ソーラーパークが2つの敷地で合計11万5000kW、上北六ヶ所太陽光発電所が5万1000kWの設備容量を持つ。合計は16万8000kWで、2014年から約85倍に急増した。村の景色はこの10年で大きく変わっている。
地元へのメリットは少ない?
六ヶ所村の再生可能エネルギーの導入容量は青森県内でもトップを誇る。環境省の推計によると、2020年度の六ヶ所村の電力使用量は38万5865Mwhで、再生可能エネルギーの発電量は53万9848Mwhと、消費電力に対する発電の割合は約140%。数字の上では電力が自給できて、さらに余っていることになる。
しかし、大規模な風力発電や太陽光発電は、基本的にはFITによって電力会社に売電されているため、現状では六ヶ所村で発電された電力が村内で消費されているわけではない。
六ヶ所村政策推進課によると、村内消費を実現する場合、自己託送や自営線などによる直接的な地産地消と、FITの特定卸供給などを通して利用する間接的な地産地消が考えられるが、いずれの手法にも課題があるという。
村では、2021年度から「地域新電力可能性調査」を始めた。地域エネルギーの検討や諸課題の整理を行うとともに、六ヶ所村の持続的な発展に向けた、環境・エネルギー施策の中心的な担い手としての「地域新電力」の可能性について調査している。
では、経済効果はどうか。政策推進課では、建設の面では村への恩恵は少ないと説明する。
「石油備蓄基地や原子燃料サイクル施設は、六ヶ所村のみならず、地域から作業員を含む多数の人材や技術を必要とし、建設を通じて地域の経済活動に多大な良き影響を与えてきたものと考えます。多大な雇用や税収をもたらし、その結果、他産業の活性化にも繋がっております。
一方、再生可能エネルギーの建設は、大手商社や既存技術を有するゼネコンなどが請け負った関係から、地域の労働力を必要としなかったこともあり、村や地域への恩恵は少なかったものと理解しております」
風力や太陽光の発電施設の建設は、特に規制する法律などがなく、発電条件に恵まれた六ヶ所村には小規模な施設も含めて多数の業者が進出してくる。
2022年5月には、風車の近くで畑作業をしていた人から、異音により体調不良になったと相談を受けて調査を実施した。異音などは関知できずに原因は分からなかったものの、風速や風向きで何らかの影響があった可能性はある。
現状では風力発電施設を設置する際の環境影響調査に、低周波に関する事項はない。村では「新たな環境指標の策定と、小型風力発電機の乱立を防止するための法整備を速やかに実施することを国にお願いしたい」と話している。
住民生活向上につなげることができるか
六ヶ所村は2008年に経済産業省から次世代エネルギーパークに認定された。石油備蓄基地とメガソーラー、それに風車を一望できる場所には展望台も設置されていて、休日でも開放されている。
展望台から眺めると、再生可能エネルギーで地域の消費量を上回る電力を作るには、いかに多くの施設が必要になるのかが実感できる。
再生可能エネルギー発電所の集積は、現状では地元への現実的なメリットは少ない。この状況を変えて、村民の生活の向上につなげていこうと、六ヶ所村では「新エネルギー推進計画」を策定し、課題の解決に取り組んできた。政策推進課では「従前の石油備蓄基地、サイクル施設、核融合研究施設等と一体的に『エネルギーの村』として、内外に発信し、産業や観光などにつなげていきたい」と話している。
風力発電や太陽光発電は、化石燃料を使わないことなどから推進されている。今後、地元住民や地域にメリットを生み出せるかどうかは、国内有数の集積地である六ヶ所村の取り組みがヒントになっていくだろう。
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