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広島で猛威 第6波 地元局の現場から

【アメリカ軍基地からの「染み出し」もあって、コロナの急拡大に襲われた広島県。その渦中で放送を続けた地元放送局の記録】

高橋 邦広(RCC中国放送 ニュース担当部長)

予期せぬ急拡大 広島から~アメリカ軍基地からの「染み出し」

 きっと来るのだろうとは思っていた。だが、こんなスピードと勢いであろうとは。第6波は、年明けと同時に広島に押し寄せた。直前の12月は感染者がゼロという日が3週間も続き、この2年間で最も落ち着いた状態だった。経済や暮らしの回復に向けて踏み出していくようなニュースもいくつか伝えた気がする。

 突然、広島で猛威を振るったのが、今回のオミクロン株だ。2022年1月6日、広島県の湯崎英彦知事は、衝撃的な予測を示し、警戒を呼びかけた。「このままのペースだと再来週には1日の感染者が8000人になる」。想像を絶する数字だ。

 そして、1月9日、広島は、沖縄・山口とともに最も早く「まん延防止等重点措置」の対象となった。3県ともアメリカ軍基地からの“染み出し”が指摘された。出国時に検査が行われていなかったという。これまでの感染拡大のパターンといえば、東京や大阪などで急増後、やや遅れて広島で波が起こるのが常だった。予測できない感染爆発だった。そして、瞬く間にオミクロン株は全国で猛威を振るう。

 感染者の数は、シミュレーションの最大値こそ回避されたが、1月下旬には1日に1500人を超え、広島県の予測どおり「過去最大」の波となった。3週間も1000人を上回り続けた。去年夏の第5波ピークの2.5倍だ。高齢者を中心に亡くなる人がこれまでと比べて多く、1月は57人、2月(20日時点)はすでに110人を超えた。

 十分に現場を取材できたとは、とても言えないが、PCR検査体制や保健所はパンク状態となり、医療機関も最も深刻な危機と向き合っていたはずだ。一時、2万人に達した自宅療養・待機者と、その家族たちにわたしたちは必要な情報を届けられただろうか。県民たちが直面していた事象のどれだけを把握し、伝えることができたのだろうか。わたしたち報道のスタッフも同じ災禍の中にいることを思い知らされることになった。以下は、第6波の、ある1週間のメモ。

3④ 画像② 大部屋

第6波の日々 そのとき報道現場では

2月14日(月)

 先週まで入院・ホテル療養していた50代部員に体調を聞く。自宅に帰って5日が過ぎたが、せきが続くことを気にしていた。先に発症した同居の長男も回復していて、本人は16日の復帰をめざすという。介護に追われた家族の状況も確認し、「あせらずに」と伝える。

 今週のニュースは、広島の第6波はピークアウトしたのか、2月20日期限の「まん延防止措置」を再々延長するかの判断。先週後半から感染者は1000人を割り込み、きょうは600人台。検査体制の薄い土日をはさんだ週明けだから、なんとも言えない。

 オンエア中に、先週金曜に陽性と判定され、自宅療養中の20代部員から連絡がある。せき・のどの痛み・鼻水が続いているという。病院に連絡し、薬を届けてもらうそうだ。食事は実家から送ってもらったものと差し入れで足りているらしいが、「朝・昼・晩ちゃんと食べているか」聞く。

2月15日(火)

 広島と同時の1月9日から「まん延防止措置」が始まった沖縄は、解除の方向だ。知事は、広島では「高止まりの状況が続いている」という認識。

 20代部員に宅配で薬が届いたという。保健所の健康観察や医師の診断も電話。自宅で不安な療養生活を送っている人は多いだろう。

2月16日(水)

 50代部員から抗原検査「陰性」を確認した写メが届く。検査キットは、会社が届けたものだ。療養を終え、行動制限もなくなって1週間経つが、念のためということらしい。本人は職場復帰したいのだが、せきが出たときの周囲の反応を気にかけている。翌日の宿直勤務からフェードインしてはどうかと返す。

 山口も「まん延防止措置」の解除を要請した。残るは広島だ。

 夜、広島市内でも雪が降り始める。50代部員から「あす復帰」のメッセージとA4用紙14枚に及ぶリポートが同僚たちに届けられる。発症から療養の詳細な記録だ。じっくりと読ませてもらう。

3④ 画像③ ホワイトボード

2月17日(木)

 朝から雪の影響や船の事故、河井夫妻事件の余波と、ニュースが続く。広島県は、「まん延防止措置」延長を政府に要請。同時に、一般医療と両立できる感染者数の指標を示す。1週間・10万人あたり今の約210人から、来月にかけて150~100人に減れば解除できる水準だという。1日の感染者数にすると540人くらい(きょう、896人)。第6波の減少カーブは、残念ながら緩やかなようだ。

 夕方には、50代部員が20日ぶりに出社。これは、いいニュース。
 
2月18日(金)

 3月6日まで広島の「まん延防止措置」延長が正式決定。週明けから酒の提供など一部緩和へ。

 自宅療養中の20代部員は、改善傾向だが、鼻詰まりと倦怠感が続いているという。あす、療養期間解除の見通し。

2月19日(土)

 朝のRCCラジオ番組が、療養中のパーソナリティーの死去を伝える。覆面キャラの一文字弥太郎さんだ。1980年代から若いリスナーに支持され、最近は社会問題も積極的に取り上げていた。1月中旬に新型コロナ陽性が判明し、自宅で療養していたが、その後、重度の肺炎と診断され入院。一時は快方に向かったものの、細菌性の肺炎合併症により容体が悪化し、きのう、亡くなったという。

 月1回の1時間番組をオンエア。テーマは、第6波の出口とカープ沖縄キャンプ。

 バイデン大統領「プーチン大統領がウクライナ侵攻を決断したと確信」との報道に驚く。

2月20日(日)

 夜、北京オリンピック閉会式。広島は、週明けから「まん延防止措置」の延長期間に入る。出口はまだまだ先。

 20代部員は、自宅で少しずつ体を動かし始めているが、倦怠感・せき・鼻詰まりが残る。回復を祈るのみ。

<執筆者略歴>
高橋 邦広(たかはし・くにひろ) 
鹿児島・屋久島出身、1967年生まれ。1990年、RCC入社。カメラマン・記者を経て2015年、東京支社報道制作部長。 2019年からニュース担当部長。

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