データからみえる今日の世相~春のイメージ、春の色~
江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)
雪の降る日があったかと思えば、最高気温が20度近くの日もありと、この頃の春の天候変化はかなり極端な印象です。
暦の上では4月ですが、春らしい春になっているかどうか。みなさんの感じは、いかがでしょうか。
春といえば、冬の厳しい寒さが緩み、だんだん陽気もよくなる頃。卒業式や入学式など、子どもや若者の人生の節目に、満開のサクラがまさに花を添える時期というイメージ。
大人は大人で満開のサクラを愛でつつ、花見で酒盛りが春の楽しみ。とはいえ、ここ数年はコロナ禍で宴会も自粛、大酒飲んで大騒ぎなど不適切にもほどがある!という感じでしょうか。
そんな春のイメージがどこまで一般的か。実はそんなことも調べてデータにしているのが、TBSテレビの誇るTBS総合嗜好調査です。
「春色(はるいろ)」といえば……
例えば、「春を表す気分や感じ」を1つの色で表現するなら、あなたは何色を思い浮かべますか。
TBS総合嗜好調査では、この質問に15個の選択肢(「この中にはない」含む)から1つ選んで回答してもらいます。2001年から毎年、実に20年以上も続くこの質問を集計したのが次のグラフです。
結果は一目瞭然で、多くの人は「ピンク」推し。質問を始めた01年で半数近くでしたが、徐々に数字を伸ばし、10年代以降は6割で推移。
01年に2割で2位の「みどり」は、ナンバー2を維持しているものの数字が漸減し、直近では1割強。
若葉を連想させる「みどり」も春らしい色ですが、やはり何といってもサクラのピンクが「THE 春の色」。このまま人々の思う春の色がピンク一色に染まってしまうのかどうか、今後の成り行きが気になるところ。
ところで「春色(はるいろ)」というと、現在50代半ばの筆者世代がどうしても心に浮かぶのが、「春色の汽車に乗って」で始まる松田聖子『赤いスイートピー』(82年発表)。
ウィキペディアによると、作詞・松本隆氏曰く「"春色"は子どもの頃に記憶しているオレンジと緑色の湘南電車で、それが海に続いているイメージ」とのこと。今では誰もが「春はピンク」となっていますが、オレンジと緑色から「春色」という言葉が出てくるのは、まさに非凡。
春といえば、あの「植物」
TBS総合嗜好調査には、他にも「四季それぞれにふさわしいと思うもの」を尋ねる質問があります。
春について17個の選択肢(「この中にはない」含む)からいくつでも選んでもらった最新データ(23年)を集計し、年代ごとに男女別で選択率トップ5の項目を示したのが次の棒グラフです(注1)。
一見してわかるのは、「サクラ」が男女どの世代でも断トツの1位で、選択率は実に7~9割と圧倒的。
続く2位以下の項目も、「入学式」「卒業式」「花見」といった行事、サクラと並ぶ春の植物「菜の花」など、男女各世代とも大体一緒。
そうした中では、70代男性5位の「こいのぼり」や70代女性5位の「ひな人形」が微笑ましく目を引くものの、若年層では「花粉症」の責め苦に季節を感じるほうが多数。
花粉症が春に「ふさわしい」かはともかく、10代や30代でランクインしたほか、50代男女でも6位、ここで割愛した20代(男性4位、女性6位)や40代(男性4位、女性5位)でも上位でした。
それにしても、春といったら誰でも「サクラ」に「入学式」に「花見」。
実はこの質問を始めた09年も、これらが春の3トップ。春のイメージは10年やそこらで変わるものではないことを、データが裏付けています。
サクラといえば、現在、日本各地で親しまれているサクラの多くは明治時代に広まった「染井吉野」という栽培品種(注2)。
普及の事情を、樹木学者・勝木俊雄氏は次のように述べています。
学校の校庭に植えられた「染井吉野」が満開になり散っていく頃が、卒業式や入学式という人生の節目と重なって、多くの人々の心に「春」のイメージとして定着していると思われます。
また、花つきがよい、木が早く大きく育つ、一斉に咲くなどの条件を兼ね備えた「染井吉野」は、満開の花の木の下で飲食をするという、「庶民が理想とするお花見の桜であったからこそ、爆発的に広がったと考えられる」(勝木、前掲書、p.7)とも。
こうして考えると、サクラに入学式に花見という春の3点セットは、明治以降の日本における近代化の産物が、今を生きる私たちにも脈々と受け継がれていることの現れなのかも知れません。
(若い)男性は春イメージが貧困?
「春にふさわしいと思うもの」の質問には17個の選択肢(「この中にはない」含む)があるといいました。回答者にはいくつでもあてはまるものを選んでもらいますが(注3)、人は一体いくつくらい選ぶものでしょうか。
その「選んだ数」を集計すると、次の帯グラフのような結果に。
上半分が男性、下半分が女性で、10代置きに結果が並んでいますが、男性では若年層ほど選択数の少ない人が多く、年を重ねるにつれて選択数が増える傾向が顕著。
一方、女性は年代による差はあまりなさそうで、どの年代でも選択数が4個以上の人が過半数。
「あれも春らしい」「ここにも春が」と様々な事柄に季節を感じる心持ちは、男性が70代でようやく至るところを、女性は10代で既に体得。
もちろん数を競うものではありませんが、ふとしたことに春を感じる心に、日々ちゃんと暮らしている人のたたずまいがうかがえる気がします。
少なくとも、満開のサクラの下で大酒飲んで大騒ぎしているだけではダメですよね。
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