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データからみえる今日の世相~「政治とカネ」と投票と~

【「政治とカネ」の問題が起きたとき、選挙への関心が高まる】

江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)

 年の初めからこんな話題で恐縮ですが、この原稿を書いている23年12月末に話題なのが、自民党派閥による政治資金パーティーの裏金疑惑。

 「政治にはカネがかかる」という政治家や政治団体などが、チケットを販売してパーティーを開きその収益を政治資金にしています。
 朝日新聞の記事(23年12月1日付)によると、自民党の各派閥のパーティーでは、当選回数や役職によって所属議員に販売ノルマがあり、ノルマを超えた分は派閥から議員側に資金が戻される仕組みで、派閥や議員側の収支報告書に記載すれば問題ありません。

 しかし、安倍派では、派閥の収支報告書に収入としてノルマ分だけを記載し、超過分の議員側への戻しは、収入・支出ともに記載しない運用を組織的に続けてきた疑いが判明。また、戻しを受ける議員側も自分の政治団体の収支報告書に収入として記載せず、それが裏金になってきたとのことで、東京地検特捜部は、政治資金規正法違反容疑での立件を視野に調べている模様。
 続報(23年12月3日付朝日新聞)では、二階派も派閥の収支報告書にノルマ超過分を記載しない運用をしていた疑いがあるそうです。

 広辞苑第七版によると「裏金」という言葉の意味のひとつが「公式の帳簿に記載しない、自由に使えるように不正に蓄えた金銭」。
 まさに、今回の事件を一言で表した言葉です。

 政治家が不正なカネを手にする汚職。そうした事件で戦後最大級の一つが1976年の「ロッキード事件」です。今50代半ばの筆者が小学生の頃の話で、もはや歴史の域に入りつつありますが、その頃の世論をとらえた貴重なデータをぜひ紹介したいと思います。

ロッキード事件と投票、それはそれ、これはこれ?

 アメリカの大手航空機メーカー・ロッキード社(現ロッキード・マーティン社)の航空機購入をめぐる、国際的な贈収賄がロッキード事件です(注1)。

 ベトナム戦争終息の流れで兵器需要が減り、赤字となったロッキード社。民間機輸出に活路を見いだそうと、会社からの贈賄と当時のニクソン合衆国政府を通じた売り込みで、外国に強引に発注させる方策を展開します。
 日本では72年8月にハワイでニクソン大統領と会談した田中角栄首相が、総理大臣の職務権限でロッキード社航空機の大量導入などを約束し、この代償に5億円を収賄。これに関連してロッキード社が大手商社丸紅、全日空、右翼運動家の児玉誉士夫の3ルートを通じて1200万ドル(36億円)にのぼる膨大な工作資金を贈賄したとされています。

 田中首相はその後、関連する企業による不正な金脈問題が発覚して74年に辞職。一方、ニクソンへの反感が高まるアメリカでは、兵器生産・輸出企業による政府援助資金の不正流用疑惑が浮上。76年2月にアメリカ議会上院で行われた外交委員会多国籍企業小委員会の公聴会で、ロッキード社副会長が日本人への贈賄を証言して事件が明るみに出ます。

 その年の秋、76年10月にJNNデータバンク定例全国調査が、一般の人々のロッキード問題への意識を調べました。

 次の帯グラフは、①事件への関心の程度と、②その年の12月に控えていた衆議院選挙(総選挙)の投票に事件が影響するか、という質問について、当時の有権者(20歳以上)の回答を支持政党別(自民党支持/自民党以外支持/支持政党なし)に分けて集計した結果です。

 まず事件への関心では、支持政党がどうであれ「大きな関心」と「多少の関心」の合計が8~9割を占め、多くの人々が関心を寄せています。
 特に自民党以外支持では過半数が「大きな関心」を示しており、事件に追及のまなざしを向けていた様子。

 しかし、調査の2ヶ月後(76年12月)に任期満了に伴う総選挙が予定される中、投票への事件の影響を問うと、支持政党によらず「事件に関係なく投票する」という声が過半数。
 そうした声は自民党支持では実に7割。それが「事件を党の問題とは思わない」ということなのか、事件があってなお「戦後の豊かな日本社会を率いた自民党を支持する」ということだったのかは、判断が分かれそうです。

 ロッキード事件のような大がかりな汚職事件を「疑獄」と言いますが、76年10月調査では「疑獄事件の再発防止に必要なこと」を9つの選択肢からいくつでも選んでもらっています。
 そのうち上位5つを支持政党別に集計したのが、次の横棒グラフです。

 順に「選挙を通じて厳しく批判」「金脈の解明」「司法当局の摘発」「法律で規制」「派閥解消」となっており、今でも「政治とカネ」の問題が起こるたびに言われることばかり。
 先ほどの帯グラフでは「事件に関係なく投票する」とされた「選挙」ですが、有権者が党や候補者に直接働きかける手段だけに、多くの回答者がそれを重視していることの意味は重いと考えます。

選挙は今、重視されているか

 政治の不正を正すために人々が選挙を重視している、と述べました。
 とはいえ、常に選挙が重視されるかというと、やはり何かが起きたとき、そして選挙で物事が動きそうだと思えるときに関心が高まります。
 JNNデータバンク定例全国調査の結果で、それを確かめました。

 次の折れ線グラフは、選択肢で並んだ社会全般のさまざまな事柄から関心があるものを複数選ぶ質問で「選挙」が選ばれた割合の推移です。
 99年までは選べる数に「主なものを3つまで」という制限があり、他の選択肢との兼ね合いから数字がかなり低めです。他方、制限をなくした00年以降の回答は、それ以前と比べて数字のベースが高くなっています。

 回答数制限があった99年までで、汚職と選挙への関心との関係で注目すべきタイミングが3つ。それが76年のロッキード事件と88~89年のリクルート事件、そして96年の民主党結成です。

 リクルート事件は、大手情報産業リクルート社が値上がり確実な子会社の未公開株を政治家、公務員、マスコミ、金融機関幹部ら76人にばらまいた贈収賄疑惑です(注3)。
 政界で名前が挙がったのは竹下登首相、中曽根康弘前首相、宮沢喜一蔵相、自民党の安倍晋太郎幹事長と渡辺美智雄政調会長、民社党の塚本三郎委員長などのお歴々(肩書は当時、秘書などが関係者のものを含む)。
 自民党は当初、この未公開株がインサイダー取引禁止に抵触しないとして、国会の疑惑追及を強気に拒絶。しかし国民の強い政治不信を招いて、89年6月に竹下内閣が総辞職、同年7月の参議院選挙は自民単独過半数割れという歴史的敗北を喫し、その後の政治改革論議につながる動きになりました。

 この動きから政権交代が現実味を帯び、98年に他党と合流して党勢を拡大する民主党が09年に政権交代を果たすまで、国政選挙のたびに選挙への関心が跳ね上がりました。
 しかし、政権に就いた民主党自身も、政治資金収支報告書の虚偽記載という「政治とカネ」問題を起こしたり、沖縄米軍普天間基地移設で迷走したり、党内が分裂気味で失速。皮肉にも選挙への関心が最も高まったのは、民主党惨敗で再び自民党が政権に返り咲いた総選挙があった2012年でした。

 それ以降、安倍晋三首相による安倍一強政権が長く続きましたが、その間の選挙への関心度は10%前後と、相対的に低いまま推移しています。

 思うに、ロッキード事件、リクルート事件と大きな「政治とカネ」の問題があったとき、「このままじゃダメなんじゃないか」という人々の思いが選挙で示されることで政治が引き締まった歴史がありました。

 ここしばらく選挙への関心が低いのは、安倍政権で問題なかったということでしょうか。個人的には、政権交代までこぎ着けた民主党の成り行きに深く絶望し、選挙に期待しなくなった人々の思いも含まれている気がします。
 そうこうしているうちに、また政治や社会が緩んで「政治とカネ」の問題が再発してしまったようです。

 国力も落ち、生活のジリ貧感も高まっている今。ロッキード事件やリクルート事件の頃の経済的豊かさも、「政治にはカネがかかる」程度の説明で裏金疑惑を見過ごせるほどの心理的余裕も、今の社会にはありません。
 もうちょっとマトモな人に政治を託したいと思うとき。それが選挙への関心を高めるときなのかも知れません。

注1:ロッキード事件の説明は、平凡社『世界大百科事典』(2007年改定新版発行)を参考にしました。
注2:調査の実施月は、1972年が7月、73年が9月、74年が11月、75~99年が10月(うち94年のみ5月)、2000年以降は11月です。
注3:リクルート事件の説明は、自由国民社『現代用語の基礎知識』(1989年版・1990年版)を参考にしました。

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。

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