データからみえる今日の世相~高校生が今いちばんほしいもの
【若者の〇〇離れと言われ続けて久しいが、一方、高校生が今自分用にほしいもののトップは、その〇〇だった。一体なぜ】
江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)
今どきの若者はテレビを見なくなった、という話を聞くことがあります。
近いところでは、NHK放送文化研究所「国民生活時間調査」を報じた新聞記事に「10代・20代の半数、ほぼテレビ見ず」(朝日新聞、2021年5月22日付朝刊)という見出しがありました。
1960年から5年ごとに全国規模で実施されているこの調査。最新結果(2020年10月実施)では、平日にテレビを15分以上視聴する人の割合は全体で79%と8割を切り、16~19歳では47%と半数を割り込んだそうです。
テレビ局勤めの筆者としては頭の痛い話ですが、別の調査で「おや?」と思うデータがありました。
高校生で「自分用にほしいもの」の1位が「テレビ」だったのです。
【引き続き「高校生が自分のためにほしいもの、それはテレビ」に続く】
高校生が自分のためにほしいもの、それはテレビ
ちょっと考えると、今どきの高校生はなによりスマホが身近かつ大切で、SNSやゲーム、動画視聴など何をするにも欠かせないデバイスなのだろうという気がします。そんな高校生がテレビをほしがるなんて…?
気になる結果を示したのは「JNNデータバンク・ヤング調査」でした。
10代の若者たちの実態をとらえるためのこの調査は、TBSテレビをキー局とするテレビの全国ネットワークJNN系列が毎年行っています。
対象は首都圏(東京30km圏)在住の小・中・高校生300名ずつ。毎年12月実施なので、いま現在の最新データは2020年12月の実施分です。
ここで問題にしているのは、「あなたが自分用としてほしいと思っているもの」についての高校生の結果です。選択肢40個の複数回答から上位4つを取り上げると次のグラフのようになりました。
これを見ると確かに1位はテレビで、男女とも3割程度の高校生が自分用のテレビをほしがっています。
また、2位の「自分専用の部屋」は女子の選択率が高く、さもありなんというところでしょうか。
3位と4位はそれぞれ「パソコン」と「タブレット端末」で、インターネットにつながる自分用のデバイスがほしい模様です。
インターネットにつながる自分用のデバイスでは、スマホが筆頭に挙がってもよさそうです。実は「スマートフォン・携帯電話」という選択肢もありますが、高校生合計9%(女子7%・男子11%)とかなり低調でした。
それもそのはず、回答した高校生の77%(女子83%・男子71%)が既に自分用のスマホ・携帯電話を所有していました。
ちなみに「JNNデータバンク・ヤング調査」の結果では、高校生のスマホ所有率が高まったのは2010年代の前半でした。10年3%→11年18%→12年58%→13年73%と急激に増加して、現在は8割前後で推移しています。
それにしても、スマホが普及した高校生に自分用のテレビをほしがる人が3割もいるのを、どう考えればよいでしょうか。
今50代の筆者が高校生の頃は、スマホもインターネットもなく、テレビが娯楽の王様でした。その頃は確かに自分のテレビがほしかったものです。
しかし冒頭に紹介した「若者のテレビ離れ」という調査結果からしても、今の高校生が自分用にほしいものの筆頭がテレビなのは、やはり不思議。
もしかして、高校生でテレビをほしがる人とそうでもない人では、テレビの見方などに差があるのかも?
そこで、テレビ番組やCM、動画視聴などの質問で関係がありそうな項目について、両者を比較してみました。
グラフから、全体として多いのは「家で家族と食事をするときには、テレビをつけることが多いほう」という意見でした。
「テレビでみたことが家族共通の話題になるほう」も半数近くあって、テレビ離れといわれつつ、家族の集まる真ん中でテレビがついていて話題になる状況はまだまだ健在のようです。
その一方で目を引くのは「テレビ受像機でテレビ放送以外の動画をよくみるほう」と「テレビ番組や映画はスマホではなくもっと大きい画面で見たいほう」という回答です。いずれも、自分用テレビがほしい高校生の該当率が、その他より10ポイント前後多くなっていました。
現在はテレビ番組もTVerなどのネット配信があり、見ようと思えばスマホで見るのも可能です。しかし、テレビ番組を楽しむために作り込まれているテレビ受像機は画面も大きく高精細、音声も高品質で楽しめます。
それならそのままテレビ放送を見てもらえばテレビ局としてはありがたいところ。しかし、ネット配信にはテレビ番組以外の動画も数限りなくあるのはご存じの通りです。
結局、いろいろな動画をテレビ受像機で見やすく楽しみたいというのが、自分用テレビをほしがる高校生の本音かも知れません。
これもテレビ局勤めの筆者には困った話ですが、集計結果にはテレビ局が前向きになれるヒントもあると考えています。
それは、自分用のテレビがほしい高校生では、好きなタレントの出演番組を選んだり、出演CMの商品を好きになったりする割合が多いことです。
言い換えれば、番組や動画をより楽しむために自分用のテレビがほしいというような高校生ほど、好きなタレントを媒介にした番組やCMの訴求力が高いと考えられる、ということです。
そして、若者に人気のタレントを使って訴求力の強いコンテンツを提供するのは、テレビ局の本領であり本分です。
「若者のテレビ離れ」といいますが、今どきは面白いテレビ番組ならSNSで話題になったり、後追いで配信視聴されたりすることもあります。若者が離れたがっているのはテレビ「番組」ではなく、決まった時間に見なければならないテレビ放送の「時間拘束性」ではないでしょうか。
もちろん、多くの人が一斉に同じものを同じ時間に見る「一斉到達力」は、テレビ放送が持つ重要な媒体力です。テレビ局はそれとともに、個々人が好きなときに好きなものを見る「個別到達力」も配信で獲得すべきで、その鍵は強い訴求力を発揮するコンテンツにあり―。
ネット配信専業事業者などライバルも増え、テレビ局を取り巻く環境は厳しさを増しています。しかし結局はコンテンツ勝負ということなら、テレビ局はその戦い方を知っているはずなのです。
<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。
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