2021年度下半期ドラマ座談会後半(1月クールほか)
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2021年度下半期ドラマ座談会後半(1月クールほか)

調査情報デジタル
【2021年度下半期のドラマについて、メディア論を専門とする研究者、ドラマに強いフリーライター、新聞社学芸部の放送担当記者の3名が熱く語る。3人が一致した1月期最高のドラマとは】

影山 貴彦(同志社女子大学教授)
田幸 和歌子(フリーライター)
倉田 陶子(毎日新聞記者)

圧倒的だった「おいハンサム!!」

編集部 1月期のドラマについてお願いします。

田幸 「おいハンサム!!」(東海テレビ/日本映画放送)、みんなもっと見ないともったいない。これだけ面白いのに。

 どういうドラマなのか、あらすじ的に見えにくいのが、あまり見られていない原因の一つだと思います。「昭和の頑固親父」というイメージで敬遠した人もいたかもしれません。しかし、役者さんもうまいですし、なんといっても脚本と演出が山口雅俊さんです。

 山口さんは、もともとフジテレビにいて「ランチの女王」「若者のすべて」「きらきらひかる」「カバチタレ!」、フジをやめてからは「闇金ウシジマくん」(毎日放送)など、いろいろな作品をつくってきた方で、脚本も演出もとにかくうまい。

 この作品も、今どきのテンポでつくられていて、若い人が見ても数分おきに笑える。笑いの量で1月期はこれが圧勝、ちょっと独走状態だと思いました。

 もちろん笑いだけでなく、いい話、ちょっと考えさせる話も後半で見えてくる。登場人物の、吉田鋼太郎さん、その娘の木南晴夏さん、佐久間由衣さん、武田玲奈さん、そして奥さんのMEGUMIさんという、家族のシーンのかけ合いだけでも楽しい。トランプをやっているだけなのに、何でこんなに面白いんだろうとか。いろいろな要素がつながってくる心地よさも出ていました。

 たとえば「五番街のマリーへ」という曲が出てくる回がありました。

影山 あれ、面白かったですね。

田幸 あの一曲だけをテーマに、それぞれの登場人物の過去の話、浮気の話、過去を美化している話、いろんな人の事情がこんなにも絡み合うのかと。このワンテーマでここまで書ける人はいないと思います。この間も、ビンゴとタンメンの話でした。ビンゴとタンメンだけで一話もたせられる。

影山 あれもすごかったですね。

倉田 吉田さんがステテコみたいなものを穿いたうえにコートを羽織って、ゴルフクラブをブンブン振り回すだけですごく楽しくて、疲れが吹っ飛ぶ作品です。

 三姉妹がそれぞれ、結婚相手や婚約相手との間でいろいろ問題を抱えていますよね。周りから見たら「その男はやめておけ」って言いたくなる男だったりしますけれど、そういう人を好きになってしまう気持ちも、女性としてわかる部分もあります。それをお父さんとお母さんが、心配しつつ、見守りつつ、でもしっかり口も出しつつみたいなところが、すごくいい親子関係だと思いました。親子関係で悩んでいる人にも見てほしいと思います。

影山 僕も「おいハンサム!!」は、1月期ドラマのナンバーワンに挙げたい。そう感じるところがたくさんあります。だけど相反して、それほど話題になっていない。僕はこんな仕事をさせてもらっているから、エヘヘ、ざま見ろ、この面白さに世間は気づいてないやろというところもありますけど。

 ネットも大手メディアも、総じて言えるんですが、勝ち馬に乗り過ぎです。何か一つ話題になった作品があれば、もうそればっかり。もうちょっと広くエンターテインメントに触れる努力をすべきだと思います。

 書く側も、送り手側も、「ハイこれ書いときゃ、ページビュー稼げますから」みたいな感じがすごくにおう。だから、「おいハンサム!!」のような作品が出てくると、すごくうれしい。
  
 吉田鋼太郎は頑固親父なんですけど、寺内貫太郎ではなくて、奥さんの言うことにちゃんと耳を傾けて聞くんです。彼女が言ったことを自分で考えたかのように娘に「これはこうだ」みたいに言う。その辺が「令和の頑固親父」なんですけど、山口雅俊さんは、多分自分が言いたいことをこのドラマに反映させているんだろうな。「牛丼はそのままが一番いいんだ。つゆだくとか言うな」とか、「焼き肉に白ご飯は食べていいけど、偉そうに白ご飯、白ご飯と言うな」とか。

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タイトルが分かりにくい?

編集部 「おいハンサム!!」というタイトルが分かりにくいようにも思いますが。

影山 たしかにこれはじっくり見ないと分かりにくい。ハンサムの意味は、決してポジティブだけではないが、愛がある呼びかけというか、お父さんのことを言っているわけです。「ハンサムなこと言って」というのが、プラス要素だけではない。このニュアンスは見続けないとわからない。

編集部 もったいないですね。

影山 もったいないけど、それがまたよかったり。知る人が知ってりゃいいというかね。

編集部 内容を簡単に語れないドラマの存在価値も大いにあるかと思いますが。

影山 今の世の中、「これは一言で言うとどういうことだ」って聞く人、よくいるじゃないですか。一言でなんか言えるか。

 一言で言えないことはいっぱいあるのに、今、一言で言えるものがもてはやされる時代になっている感じがします。それに対するアンチテーゼのドラマかもしれません。

「恋愛感情を抱かない人」とは

編集部 1月期、ほかにいかがでしょう。

倉田 私はNHKの「恋せぬふたり」が今のところナンバーワンかと思っています。二人ともアロマンティック(他者に恋愛感情を抱かない人)でアセクシュアル(他者に性的に惹かれない人)であるという設定の岸井ゆきのさんと高橋一生さんが同居生活を始める話です。

 自分の中の「普通」とか「常識」を疑え、ということは、皆さん当たり前に感じていると思いますが、日々過ごしていると、どうしても自分の考え方にとらわれがちです。この作品は、それでは駄目だよ、というのをガツンと突きつけてくる。

 LGBTQについて描いた作品は、すでにたくさんありますが、その前というか、「人に恋愛感情を抱かない」というのはどういうことなのか、これまで具体的に想像したこともありませんでした。

 そんな私が、主人公たちが、そもそも他人に恋愛感情も性的感情も抱かないという点で、生きづらさを感じながら生きているという姿に共感をおぼえました。

 私も未婚なので、親や友達から「結婚しないの?」とか「結婚は後でも、子どもだけ先に産んでおけば」みたいなことを言われたこともあります。それは「私の人生だから放っておいてよ」で流してきましたが、結婚や出産より前段階の「他人に対する恋愛感情」のところで、他人に「何で人に恋愛感情をもてないの?」と言われるのって、本当にしんどいだろうと思いました。

 私も、彼氏のいない友達に「彼氏、欲しくないの?」と言ったこともあります。もし彼女がアロマンティックの人だったらと想像したときに、自分が日々発する言葉や、当たり前と思っていることを常に疑いながら生きていかないといけないと感じました。

田幸 LGBTQのドラマはかなりつくられてきて、LGBTQをめぐる状況もどんどん変わってきている中で、無性愛者のことはみんな全然知らない、と役者の中山咲月さんがカミングアウトされています。

 「中学聖日記」(TBS/ドリマックス・テレビジョン)などに出ていた方なんですけど、インタビューをしたことがあって、恋愛感情がない、性欲がないことに対して、「それってどういうこと?」とずっと言われて傷ついて、生きづらさを感じている。そういう当事者の話を去年聞いたばかりなので、タイムリーでした。当事者の生の感情をリアルに描いていると感じます。

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重くなりがちなテーマを「楽しく」描く

田幸 その点もさることながら、楽しく見られるエンタメとしてつくっている、そのバランスもすごくいい。

倉田 そうなんです。そういう問題を考えさせられながらも、普通にドラマとして楽しいんです。二人の同居生活に、三人目の同居人が来ますけど、彼のちょっと無神経な感じ、「おまえ、その無神経さは人として駄目だろ」とツッコミたくなるところすら面白い。

影山 その三人目のキャラがいいですね、岸井さんに思いを寄せている濱正悟さん。

田幸 無意識に、無神経にどんどん入り込んでくる彼の存在がうまく効いています。彼はアロマンティック・アセクシュアルではないし、最初はアロマンティック・アセクシュアルに対して全く知識がないので「どういうことなの?それ、おかしいよ。おかしいよ」と直接言ってくるんです。

 彼の無神経な問いかけは、一般の人や視聴者の「代表」でもあり、なおかつ彼がアロマンティック、アセクシャルの人について発見、理解していくシーンも多い。

影山 彼を通じて僕たちが気づかされていく感じですね。

田幸 そして、彼の乱入によって、岸井さんと高橋さんにも変化が生まれてきます。人に問われることで、あらためて自分たちのことを考えてみる。そこで「恋愛感情がない家族、いいじゃない」となってくると、三人目の彼が「じゃあ、恋愛感情抜きで家族になるの、俺でもよくない?」と問いかけてきて、ちょっと立ちどまった。

影山 あれは、ハッとしましたよね。

田幸 わかり合えない人たちが、会話を通じてわかり合っていく。もともと絶対にわかり合えない存在として距離を置き、「放っておいてほしい」という気持ちを持つ人も多いと思います。断絶になるのも自然なことかと思います。しかし、少しずつ対話することで、自分とは異なる価値観・考え方があることを理解していくのはLGBTQに限らず重要だな、と感じました。そのきっかけとして、濱さんが入ってきたことで深まったと思います。

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気概を感じる「ミステリと言う勿れ」

影山 続いて、「ミステリと言う勿れ」(フジテレビ)です。僕はやっぱり第1話です。

 多くのドラマで活躍している遠藤憲一さんが、第1話の刑事役、これ
には度肝を抜かれましたし、ジェンダーというか、男女の役割について触れる部分もふんだんにある。あんた、仕事で家庭から逃げてたんやろというところもズギューンと感じさせられ、心当たりありまくりというか、そのとおりです、みたいなね。捜査というところで逃げてんのやろとか、そういうせりふもビシビシときました。
 
 一生懸命見ないとわからなくなるドラマです。ちょっと前から「今の視聴者はスマホを見ながらテレビ画面を見る<ツーウインドウ視聴>だから、そういう視聴者にわかるドラマをつくらなきゃいけない」と流行り言葉の様に言われていました。それにガーッとおもねるつくり手も一部にいましたけれど、これもそのアンチテーゼですね。

 「ついてこれるやつだけついてこい」というメッセージ性が、「最愛」もそうだし「ミステリ」もそう。その気概、テレビマンの矜持というのか、本気でやっているし、思いっきり楽しんでつくっていると感じます。
 
倉田 ネットを見ると、原作があるだけに、主人公のビジュアルとか、この配役は違うとか、原作との比較がたくさん書き込まれています。それは、ご意見としてあると思いますが、私はドラマも原作も、どっちも楽しんでいます。

 ドラマは、役者さん、つくり手さんのクリエイティブな部分が加わった別のものなので、違いが気になることもありますが、細かいことは気にせず両方楽しめばいいんじゃないかなと思います。

田幸 私は原作が大好きだったので、最初は正直、主人公のイメージは菅田さんじゃないと思ったほうでした。

影山 原作を読んだ方で、そうおっしゃる方もけっこういますね。

田幸 原作はもっとふわふわ天然というか、不思議ちゃんな感じだったので、菅田さん演じる主人公が、シャープ過ぎて最初から頭よく見えすぎると、若干感じました。

 ただ、菅田さんの言葉の持つ説得力は、やっぱりすごい。これが主人公を演じる上で大事だったんだと思いました。見た目の似ている人ならば他にもいるでしょうし、イメージからすると、もっと不思議でボーッとした感じの役者さんにやらせるのもありだったと思います。

 でも、そういう感じだと、あの言葉があんなにも響いてこない。脚本はかなり原作どおりに書かれているので、刺さってくるせりふもそのままです。

 「3年A組‐今から皆さんは、人質です‐」(日本テレビ)は、菅田さんが演じたからこそ、あれだけ若い人に刺さった。演じる人の言葉を咀嚼して、自分のものにして語る役者さんだといつも思っていて、だからこそ響くものがあるんだと思います。

 個人的には、柄本佑さんが出た回が大好きです。柄本さんと菅田さんの二人芝居が延々続く、これをずっと見たいと思いました。今後見てみたいドラマということでは、うまい役者さん同士の、ガッツリ組む生の舞台のような、生ドラマを見てみたい。

影山 僕も全編1時間を生で見たいです。そんなの今は無理だよと言われそうですけれど、いや、昔やってたんやからできるやろみたいなね。そういうのがあるといいですね。

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「格好悪い」松本潤の魅力

影山 「となりのチカラ」(テレビ朝日)は、あれこれ言われていますけど、(脚本・演出の)遊川和彦ワールドですね。格好悪い松潤。それをどう評価するかというところでしょう。十分に格好いいとは思うんですけど。

田幸 私は、松本さんって格好悪い役をやるのがいいと、もともと思っていました。このドラマでも、真面目で、変なところに首を突っ込んだり、もがいたり、あがいたりするところに松本さんの持ち味が出ています。来年の大河ドラマ「どうする家康」でも、きっとみっともなくて、真面目。頑張っているけどみっともない、人間的な部分を見せてくれると思います。

倉田 松本さんは当たり前ですけどすごいイケメンじゃないですか。イケメンがイケメン役をやってもつまらないと思っていて、TBSの「99.9」もそうでしたけど、ちょっと変人っぽい役がすごくうまくて、今回もハマリ役だと思います。

 おせっかいで、人の家庭の事情に首を突っ込むのは、現実ではなかなか、特に都会では見られない光景ですけど、そこに昭和の懐かしさも感じつつ、さらにモヤモヤ感もある。なぜなら問題がスパッと解決しないんですよね。

 今までだと、格好いい頼れるヒーローが出てきて、困り事を解決する。事件を解決したり、病気を治したり。そういう作品はいっぱいありましたが、ちょっと首を突っ込んで、完全には解決しない、けどちょっと希望を残して去っていく、新しいヒーロー像だと感じます。

影山 モヤモヤという言葉が出ましたけど、みんなもっとエンターテインメントにふれて、「モヤモヤしようよ」と呼びかけたいですよね。

 この時代、社会だから、スッキリしたいのはやまやまですけど、そんなに安直に、簡単にスッキリしてどうするのか。遊川さんが、いつものように時代に挑戦しているというか、抗っている感じはあるし、松潤の代表作になってほしいなと、希望を込めて思っています。

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「再び失うこと」への恐れを描く

田幸 「妻、小学生になる」(TBS)ですけれど、堤真一さんの奥さん、石田ゆり子さんが10年前に亡くなって、生まれ変わってきて小学生。生まれ変わり物って時々ありますが、「生まれ変わり」という事実そのものを認めて、受け入れるまでの展開を描写していくことが多いように思います。

 この作品もそうかと思って見たら、第1話で、堤さん親子がもうその事実を受け入れる。ここから始めるんだというのが意外でした。生まれ変わりをいかに受け入れるかではなく、失った痛み、悲しみを知っているからこそ、再び失うことへの恐れ、喪失のほうを描いているのはすごい。思ってもみない展開でした。

 しかも、えたいの知れない何かとして生まれ変わったのではなく、小学生としての10年間があることで、混乱が生じている。ネグレクトなどの家庭の事情だったり。しかも石田さんの人格が目覚めたことによって、そこまでの小学生、万理華ちゃんの10年間をなしにしてしまう、もともとの万理華ちゃんが築いてきた10年間が忘れられつつあるという恐ろしさが、全然想像しない方向に行っている。いろんな喪失が同時に描かれているのは、面白いと思います。

 あと、何といっても「おちょやん」(NHK)をやった毎田暖乃ちゃんがうまい。子どもに見えたり大人に見えたり、見ている側までちょっと混乱する。

倉田 万理華ちゃんの小学生として生きてきた人生と、石田さんの人格が昔の家族に会いに行くという、二重生活みたいな危うさがあり、本当にこの先どうなっていくんだろうと、心配な気持ちもあります。

 落ち込んでいた家族が、妻が帰ってきたことで元気になり、仕事にも張り合いも出、生活が生き生きしてくる。しかしその生活はいずれ失われる可能性もある。二度失うことで、こっちの家族はどうなるのか。万理華ちゃんの人生もどうなるのか。気になって気になって仕方ないです。

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画期的な「3代、3人のヒロイン」

影山 「カムカムエヴリバディ」(NHK)は語りたいですね。

田幸 藤本有紀さんの脚本がとにかくうまい。藤本さんは、「ちりとてちん」のときもうまかったんですが、「ちりとてちん」は、一回見るだけだと拾い切れないほど情報量が多くて、習慣的に複数回見る人が相当出た。かわりに、一回だけとか、耳で聞いているだけではわからない人が相当数出て、視聴率ではかなり苦戦しました。

 そういう歴史を踏まえて、それでもやはり朝ドラは、意欲的なチャレンジングな作品が増えました。「おかえりモネ」もそうでしたけど、振幅を大きくしてきたからこそ、朝ドラ視聴者の見方も成熟してきたところがあります。

 そこにもう一度、藤本さんが戻ってきた、どんな作品を見せてくれるのかと思ったら、昔からの、耳だけで聞いてもわかる作品でありつつ、複数回見る人にもそのつど発見があるという二重構造になっている。

 ただあらすじ、ストーリーを追うだけの人も楽しめる。その層も取りこぼさず、たくさんのボーナスもあるというところに至っているのが、すごいと思います。

倉田 ヒロイン3人体制というのは、物すごいチャレンジだと思いますが、その分、展開が早過ぎて、心が追いつかず置いてきぼりになるときも正直ありました。特に、安子(上白石萌音)編の稔さん(松村北斗)との恋が始まってからお別れまでが、あっという間過ぎて、朝から情緒不安定にさせないでよという気持ちになったりもしました(笑)。
 
影山 僕は、この間から始まった川栄李奈さんに大いに期待をしています。一見すると、時代的にもそんなに苦しいことはなくて、何の苦労もしなくてもしゃんと生きているというか、あっちフラフラ、こっちフラフラしてんのやろうけど、あれこそが等身大の今というかね。川栄さんは、倉田さんもインタビューされてましたけど、彼女が演じるヒロイン像がこれから楽しみです。

 もう一つは、オッサンなので、自分の気持ちがすごく投影されるのがオダギリジョーさんです。業界の友人たちと結構かんかんがくがく言って、彼らは「オダギリジョーはまたトランペットを吹くぞ」と言う。俺は、「絶対吹かない。吹いたら面白くない。あれは、ええオッチャンになんねん。家庭人になんねん」と。そら見てみろとこの間言ったところなんです。

 成功の図式を見せることだけがドラマじゃないぞと。何もしていない、回転焼き一つ焼けない、家事も何もできないけれど、家庭において大きな役割を演じている父の姿。形あるものでしか評価されないわけではない、これは別に男の都合よくしゃべっているわけではないですけれど、オダギリパパの存在感は今も大いに出ていると思うし、もっと言うと、川栄さんがこれから成長していく過程で一吹きするんちゃうかな。そんなことを勝手に思っています。

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印象に残った俳優は

編集部 印象に残った俳優さんはいらっしゃいますか。

倉田 「もしも、イケメンだけの高校があったら」(テレビ朝日)の細田佳央太さんは気になっています。イケメンに囲まれる、ちょっと能天気な高校生役です。

細田さんは「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」(日本テレビ)では全盲の男の子の役をやったり、昨年の「ドラゴン桜」(TBS)で、発達障害がありつつ、すごく集中力の高い子の役をやったり、そのときから気になっていました。20歳の、本当に若い役者さんですけれど、彼が出演した作品を立て続けに見て、今後どういう役をやっていくのか興味があります。

田幸 細田さん、すごくいいですよね。私も、「白杖ガール」のときにすごく面白い子だと思いました。映画「町田くんの世界」でも、彼の雰囲気が醸し出す面白さが出ていました。あとは、「おいハンサム!!」でモラハラ男を演じた高杉真宙さん。

影山 アーッ、そうですね、いいですね。

田幸 あれはすごい。こういうモラハラ男は、これまではもっと極端に演じられてきました。自分の価値観を押しつけるタイプだと、大昔では「ずっとあなたが好きだった」(TBS)の冬彦さんみたいにマザコンとして演じるような方向に行きそうなんですけど、彼はさわやかなまんまなんですよね。

倉田 確かに。

田幸 さわやかに、日常会話の普通のトーンでモラハラするところに変なリアリティーがあって、骨の髄まで、生まれついてのモラハラ男なんだなと。

倉田 わかります。

田幸 自分自身では気づかない、悪意も何もない、リアルなモラハラって、まさにこうだというところに、高杉さんのうまさが出ていました。

 また、そのモラハラをやられる武田玲奈さんがよかった。彼女はこれまで明るい役が多かったですが、今回はどんどん感情が凍っていく。モラハラされているとき、ほとんどまばたきしないんです。表情筋をあんなに動かさずに受け続ける武田さん、すごいなと思います。

影山 僕は、「となりのチカラ」で、まだ目立ってないですけれど、何かわけありな雰囲気の清水尋也さんですね。

 「おかえりモネ」(NHK)では、パッとしない気象予報士がハンサムになるという役柄でしたけど、ヌボーッとしている感じでしたよね。「となりのチカラ」でも、ちょっと人でも殺してるんちゃうかというミステリーな感じがあります。

 彼はまた、佐藤二朗さん主演の「さがす」という映画で、ちょっと猟奇的というか、自殺を手伝うといって何人も殺す役をやっているんですけど、これが怖い。楽しみにしている役者さんです。

 それから「おいハンサム!!」の浜野謙太さん。いいですね。あのちんちくりんぶりが、やっぱりほっとする、長女の元彼で、とっても味わいがあって、いい。僕の予想では、長女は彼と結ばれるだろう、そうあってほしいと思ったりしています。

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ドラマにおけるジェンダー表現の変化

編集部 最後にお伺いしたいことがあります。2021年度下期は、男性同士の恋愛が要素として入っているドラマが複数ありました。「消えた初恋」(テレビ朝日/ジェイ・ストーム)「ケイ✕ヤク」(読売テレビ)や「ヤンキー君と白杖ガール」にもそういう人間関係がありました。

 以前だと、男性同士の恋愛は、それ自体をメインテーマとして描くことが多かった印象です。しかし最近は、それはあくまで要素の一つという傾向があるように思いますが、いかがでしょうか。

影山 それがメインテーマになっていた時期は、まだ時代が追いついていなかったのだと思います。それが主菜ではなくて、副菜というのかな、ワン・オブ・ゼムとして描かれるようになってきたのは、時代が、不十分な点はもちろんいまだにありますけれども、それなりに追いついてきたという気はします。ナチュラルになってきた。
 
田幸 私も、それが本当に普通のものになってきているからこそ、いろんなカップルとか、いろんな人間関係の中の一つとして描かれるようになってきたのはあると思います。

 2021年10月期のドラマ「SUPER RICH」(フジテレビ)には、江口のりこさんに思いを寄せる中村ゆりさんがいらっしゃった。普通のカップル、普通の人間関係、普通の恋愛として男性同士を描くことがふえている一方で、女性バージョンが出てきたのは、ちょっと珍しいと思いました。これも本当に今どきだなと。

倉田 男性同士、女性同士、また、アロマンティック・アセクシュアルなど、現実の社会には実に多くの多様性があるという事実をみんなある程度わかってきていて、ドラマでもそういうことも含めて描く。私が子どもの頃には、ドラマの中で同性愛者を描くときに、ちょっと面白おかしく描いてしまったり、ということが残念ながらありました。

 今、それはほぼなくなってきていて、ある部分現実でもそうだし、理想でもそうあるべきなんだということをドラマの世界が見せている。当たり前に、多様な人がいるんだよというのが、ドラマと現実の両方で少しずつではあるんだけれど、そろってきたと感じています。

司会 最後に、これだけは言っておきたいということがあれば。

田幸 一つだけ。「恋せぬふたり」の脚本を書いた吉田恵里香さんですけ
れど、この方はテレビ東京でかなりブレイクした「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(テレビ東京/大映テレビ)、通称「チェリまほ」を書いた方なんですね
 
 ともすれば、いわゆる「色物」になったり「笑い」のみに流れたりしかねない題材を、決してそうではなく、人間同士の美しい恋愛感情、愛を描いた。そういう方だからこそ、「恋せぬふたり」が書ける。そのバランス感覚がすぐれている方だと改めて思いました。今後注目したい脚本家さんです。

倉田 私も、気になる脚本家さんに吉田さんを挙げようと思っていました。「チェリまほ」からの流れを「恋せぬふたり」で感じていますので、次の作品が楽しみな方です。

編集部 ありがとうございました。

<座談会参加者紹介>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職
朝日放送ラジオ番組審議会委員長
日本笑い学会理事
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。Yahoo!のエンタメ個人オーサー・公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。

倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、東京本社生活報道部などを経て、現在、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。

 <この座談会は2022年2月16日に行われたものです> 

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