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<シリーズ SDGsの実践者たち> 第9回 日本の風力発電の現在地

【再生可能エネルギーとして世界的に急拡大している風力発電。しかしこの分野でも日本は遅れを取っている。その現状と今後の課題は】

「調査情報デジタル」編集部

 再生可能エネルギーの中で、世界的に急拡大しているのが風力発電。世界最大の発電設備導入国は中国で、アメリカ、ドイツが続く。この10年で発電設備の導入が約20倍に増加した洋上風力発電は、中国のほかヨーロッパが高いシェアを誇る。

 日本でも風力発電の導入は陸上を中心に年々増加しているものの、海外に比べると遅れをとっている。政府は洋上風力発電を成長戦略の一つに位置付けているが、現在はほぼゼロの状態で、本格的な開発はこれからだ。日本の風力発電の現状を見ていきたい。

世界的に急拡大する風力発電

 風力発電は風で風車を回して、回転エネルギーを電気に変える仕組み。発電時に二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーであるとともに、資源が枯渇することもない。太陽光発電と違って、風さえ吹けば夜でも発電できるなどメリットは多い。

 大規模に発電ができれば、発電コストを火力発電並みにすることも可能なことから、再生可能エネルギーの中でも世界的に急拡大している。

 世界風力会議(GWEC)の「Global Wind Report 2022」によると、2021年時点での世界の風力発電の総容量は最大で837GW(GW=100万kW)。これは世界中で年間12億トンを超える二酸化炭素の排出を回避するのに役立っている。年間12億トンは南米地域での年間の排出量に相当する量だ。

 風力発電には大きく分けて陸上と洋上の2種類がある。大半を占めるのは陸上で、世界の発電設備容量は780GW。中国が40%でトップシェアを誇り、アメリカの17%、ドイツの7%が続く。

 洋上の発電容量自体はまだ57GWと少ないものの、中国やヨーロッパで急激に伸びている。2010年は2.9GWだったが、2021年には57GWと約20倍に増えた。シェアは中国48%、イギリス22%、ドイツ13%。さらに、2030年には228GW、2050年には1000GWに迫る可能性があると国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は推計している。

 日本でも風力発電の導入量は年々増加している。2021年末時点での発電設備容量は4.58GW。日本の原子力発電1基の容量を平均1GWとすると、原発約4.5基分となる。ただ、世界でのシェアは1%にも満たず、洋上はゼロに近い状況だ。

東北地方に集積する風力発電 

 国内の状況を地域別で見ると、風力発電の導入量が多いのは東北地方。2021年末時点で1.645GWと、2番目に多い九州地方の0.63GWを大きく引き離している。東北地方の中でもトップクラスの導入量を誇るのが、0.656GWの青森県と、0.648GWの秋田県だ。

 青森県は国内最大の風力発電所「ウィンドファームつがる」がある津軽地域や、下北地域を中心に陸上風力発電が行われている。集積している地域では、冬の月間平均風速が8メートルを超える。風力発電の平均設備利用率は20%が想定されているが、青森県内では30%以上を誇る発電所も多い。

 ただ、青森県では特に誘致もしていないという。開発が相次ぐ理由を、青森県エネルギー開発振興課は次のように説明する。

 「国内初のウィンドファーム『龍飛ウィンドパーク』の実証実験が1992年から2006年まで行われました。この実験で風力発電に適した強い風が吹いていることがわかり、発電所が増え始めました。また、青森県や秋田県の日本海側は、偏西風の影響で発電に十分な風が吹いています。

 青森県内にこれだけの風車が建っているのは、地域住民の理解があるからです。風車自体は大型化が進んでいる状況で、県内の事業者が単独で工事をするのは難しくなっていますが、基礎工事や土木工事は地元の業者が担っていますので、一定の経済効果もあります」

国内の洋上風力発電はこれから

 一方の秋田県では、国内初となる商業ベースでの大型洋上発電が2022年中に始まる予定だ。事業を行うのは丸紅など13社が出資する秋田洋上風力発電。秋田港に13基、能代港に20基の風車が建設される。陸上風力発電の姿も見える秋田港では、秋田洋上風力発電の風車タワーの組立工事が進められている。

秋田港の陸上風力発電
秋田港で組立工事中の風車タワー(2022年5月撮影)

 洋上風力発電は、政府が成長戦略の柱の一つとして推進しようとしている。2019年4月には「再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が施行され、洋上風力発電の促進区域を国が指定し、事業者が30年間占有できるルールなどを定めた。現在、促進区域は秋田県内、長崎県内、千葉県内に指定されている。

 また、2020年10月に当時の菅首相が2050年にカーボンニュートラルを目指すと宣言したことを受けて、同年12月には経済産業省が中心となってグリーン成長戦略を策定。風力発電の導入目標を、陸上は2030年に現在の4倍近い17.9GWに設定。洋上は2030年に10GW、2040年には最大45GWを目標に掲げている。45GWは原子力発電所45基分に相当する。

 ただ、国内には大型の風力発電設備を開発するメーカーが存在しない。かつては数社が手掛けていたが、すでに撤退している。その状況で政府が洋上発電に手厚い支援をすることには専門家から疑問の声も上がっている。

 海外では太陽光よりも風力の方が経済性に優れているにもかかわらず、国内の再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)では風力の方が買取価格が高い。九州大学経済学研究院の堀井伸浩准教授は、「市場競争につながらないぬるま湯の支援は結局、競争力のある企業育成につながらなかった」と指摘。「国内の洋上風力導入コストが高止まりして、買取価格費用をさらに増大させ、国民負担が増すのではないか」と懸念を示している。

 他にも送電網と配電網の確保、環境アセスメントや漁業関係者との調整に時間がかかるなど、課題は多い。風力発電が今後も国内で増えていくのは間違いないものの、その進め方にはまだまだ議論が必要ではないだろうか。

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