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データからみえる今日の世相~夏の夜にアクティブなのは、宇宙に行きたい「宇宙派」の人

【民間宇宙旅行元年を迎えても、まだまだ高額な宇宙旅行。雲の上のことながら、宇宙に行ってみたい「宇宙派」は5人に1人。】

江利川 滋(TBS総合マーケティングラボ)

 この原稿を書いている今(2022年6月下旬)、関東ではまだ梅雨が続いていますが、気温の高い日もあって夏の気配がそこまで来ています。

 ここ2年ほどは新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、いろいろな活動が短縮・自粛で思うに任せませんでした。しかし、この頃は感染者数の動向も落ち着いた感があり、自粛していた活動も夏に向けて徐々に再始動しつつある模様。

 短縮・自粛と言えば夜間の飲食店営業。筆者の身の回りでも夜の会食・宴席がぼつぼつ始まっています。梅雨明けの夏本番にはビアガーデンでキンキンに冷えたジョッキを傾けよう、などと早くも真夏の夜の楽しみに思いを馳せたりして……。

 オジさんが卑近なほうに思いを馳せてしまいましたが、夏の夜でもっとロマンチックなほうに思いを馳せるなら、やはり宇宙でしょう。七夕の短冊に願掛けしながら、輝く星々に深遠な大宇宙の神秘を感じるとか……(書いていて気恥ずかしいですが)。

 そういえば、昨年は民間宇宙旅行元年だったそうです。

 21年7月に英国の起業家リチャード・ブランソン氏が米国ヴァージン・ギャラクティック社の宇宙船で高度80km超に到達。その数日後にAmazon.com創業者ジェフ・ベゾス氏が米国ブルーオリジン社の宇宙船で高度100kmに到達。9月に米国の起業家イーロン・マスク氏率いる米国スペースX社の宇宙船「クルードラゴン」が4人の民間人を乗せて3日間の宇宙旅行をしました(21年10月4日、日本経済新聞)。
 そして昨年12月、起業家の前澤友作氏が民間日本人として初めて国際宇宙ステーションに12日間滞在。費用は同行者と合わせて約100億円程度を支払った(21年12月9日、毎日新聞)とか。

 民間人の宇宙進出がぼつぼつ出始めたものの、誰でも気軽に行けるというのにはまだ時間が掛かりそう。
 それでも「行ってみたいところは?」と問われて「宇宙!」と答える人とはどんな人でしょうか?やっぱりロマンチスト?

 実はそれがTBS総合嗜好調査の分析で確かめられるのです。

宇宙・台湾・地中海、行きたい人気は同じくらい

 昨年10月に実施した最新のTBS総合嗜好調査には、「行ってみたい外国や地域」を52個の選択肢からいくつでも選んでもらう質問があり、その中に「宇宙」もあります。
 この「宇宙」を選んだ人は東京地区の回答者全体(13~74歳男女・1,284名回答)の20%。ちなみに「宇宙」と同じくらいの人気だったのは「スペイン」21%、「台湾」と「ギリシャ・エーゲ海」20%、「ミラノ・フィレンツェ・ベニス」19%でした(注)。

 では、どんな人が「宇宙に行きたい」のでしょうか?
 まず性年代の内訳を、回答者全体や宇宙を選ばなかった「その他」の人と比較してみたのが、次の帯グラフです。

 全体の8割は「その他」なので、「その他」と全体は大体同じ構成です。それらと比べると「宇宙に行きたい」人、すなわち「宇宙派」は青年(20~30代)男女と中年(40~50代)男性の割合が多めでした。
 宇宙派に占める10代の割合は上の世代より少ないですが、それはそもそも10代人口が少ないため。10代だけで集計すると宇宙派率は28%で、青年の25%、中年の18%より多くなります。
 若い世代ほど、宇宙に憧れているようですね。

好きな言葉は「夢」、そして「神秘」

 今度は宇宙派の内面をのぞいてみましょう。
 分析に用いるのは「好きな言葉」についての質問。84個の言葉から好きなものをいくつでも選んでもらっています。

 宇宙派の多くが選んだ言葉と、「その他」の人と比べて選択率が高い言葉をまとめたのが、次の棒グラフです。

 全体として宇宙派は多くの言葉が「好き」ですが、左側の上位6つは「その他」の人もそれなりの選択率で、選ばれがちな言葉が並んでいます。
 その中でも「夢」は宇宙派のほうが15ポイントも高く、ロマンチストらしさを感じさせるところです。

 右側は「その他」より10ポイント以上差を付けた言葉ですが、「神秘」や「愛」「未来」など、さもありなんといった感じ。
 こうした言葉をつなげてみると、宇宙派は、夢と愛、あそびごころを胸に、神秘の宇宙へ冒険に乗り出し、未来の成功を目指している、といったところでしょうか。

 とりわけ「成功」という言葉が好きなところには、どことなく宇宙を目指す起業家にも通じる特徴が表れている気もします。

 ちなみに「好きな催し物」(選択肢42個・複数回答)の質問だと、宇宙派のベスト3は、1位「花火大会」60%、2位「縁日・夜店」37%、3位「プラネタリウム」34%でした。
 花火大会に縁日・夜店といったら、まさに夏の夜の娯楽の大本命。コロナ小康の今年、自粛明けの宇宙派が真夏の夜を謳歌するかも?
 また、プラネタリウムの選択率34%は「その他」18%のほぼ倍で、宇宙派の面目躍如といったところ。

 なるほど、宇宙派はやはりロマンチストで、夏の夜も好きそうでした。

個性派志向の宇宙派、男女観は世間並み

 ロマンチストな宇宙派は、日頃どんなことを考えているのか。続いて生活態度やものの考え方について集計してみたのが、次の棒グラフです。

 46個の意見から自分にあてはまるものをいくつでも選ぶ質問で、左が宇宙派の上位項目、右が「その他」との差が大きい意見です。

 上位項目では、男性の家事・育児参加に宇宙派の7割が賛成ですが、「その他」も同程度で、男女観は今どきの世間並みといった印象です。
 「老後の備えには保険や貯蓄」「のんびりとマイペースの生き方がしたい」なども両者に差はなく、基本的な人生観も世間並み。

 一方、「その他」と10~20ポイント程度差が開いている意見は、「他人と違った趣味をもちたい」や「今の生活とは違った別の生き方をしたい」などで、他人や現状との違いを求める意識がうかがえます。

 パンチが効いているのが「セックスなどの話題は時と場合によってはかまわない」という項目。宇宙派の半数がそう考えており、「その他」に17ポイントの差を付けています。
 性の話も別に敬遠しない態度は、性をタブー視しがちな世間と違い「そんなものは気にしない」という豪放磊落さの表れでしょうか。

 では、やはり宇宙派で多い「必要のないものでもできるだけとっておく」という項目は何の表れ?
 こじつければ「今必要なくても、いつか役に立つかも」と、将来の可能性を閉じない姿勢を表しているのかも知れません。

 これまでの議論をまとめると、「ロマンチストで夏の夜のイベント好き」「男女観や人生観は世間並みながら、現状や世間に囚われず将来の可能性に開かれた生き方を志向する」のが宇宙派、となりそうです。

 そう考えるとコロナ禍で世間一般等し並みに自粛を余儀なくされた生活は、夏の夜のイベントが好きで人とは違った生き方にひかれる宇宙派にとって、特につらいものだったのかも知れません。
 かつての日常が再起動しつつある今年の夏を祝して、宇宙派には宇宙への思いも馳せていただきつつ、キンキンに冷えたビールでみんなとりあえず乾杯といきますか。

注:数値の小数第一位を四捨五入して表記しているため、同じ数値でも回答者の実人数ベースでは一致しない場合があります。

<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は総合マーケティングラボに在籍。

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chousa@tbs-mri.co.jp


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