子どもとインターネット
竹内 和雄(兵庫県立大学環境人間学部教授)
歴史的転換期
私は元中学校教員として、20年子どもたちの近くで勤務していました。その後、教育行政で5年を経て、大学教員12年目ですが、主に子どもたちとインターネットについての研究と実践に関わっています。
そういう私から見ても、今、子どもとインターネットとの関わりは、歴史的転換期だと考えています。私たち大人は、そういう時代を生きていくうえで、何を心配し、どういう対策をしていけばよいかを考えていきたいと思います。
① 2歳児のネット利用率62.6%
グラフは、私が委員として関わっている内閣府の調査です。0歳児のネット利用率はすでに11.6%で、2歳児は62.6%と過半数を超えます。乳幼児の利用率が高まること自体は当然の流れだと考えています。赤ちゃんが勝手に情報端末を操作するとは考えにくいので、きっかけは保護者が与えているのだと思います。
具体的には、家事が忙しい時や、外出先で子どもにぐずられたときにYouTube等の動画を見せていることが多いのでしょう。私は58歳ですが、私が育児していたときも、同じように「おかあさんといっしょ」等のテレビ番組やアンパンマン等のビデオ映像を見せていました。媒体が変わっただけで大騒ぎすべきではないことです。
違いがあることも事実です。例えば「おかあさんといっしょ」は6時になったら終わって、ニュースが始まり、子どもはテレビに興味を失います。アンパンマンも一度見終わるといったん関心から離れます。
しかしYouTubeはそうはいきません。次々に関連動画が表示されます。赤ちゃんもしばらくすると操作方法をわかってきます。次々と興味ある動画を見続けてしまいます。先日、中学教員時代の同窓会に呼ばれて参加したときに、教え子が2歳の息子さんを連れてきていました。私はあやす気マンマンでしたが、その子は出されたご飯を食べながらおとなしくYouTubeを見ていました。おかげで教え子諸君とたくさん話せたのでありがたかったですが、がっかりした気持ちもあり複雑でした。
つまり便利なことは便利ですが、配慮しなければならないことももちろんある、ということです。その1つは使いすぎ対策、です。
② GIGAスクール構想
文部科学省の打ち出したGIGAスクール構想で、2021年末には、日本中のほぼすべての小1~中3に情報端末が配られました。子どもたちは学校で、文房具として情報端末を活用しています。インターネットを使って調べ学習をしたり、意見交換をしたり、活用が広がっています。文部科学省は端末を持ち帰って活用することを推奨していて、家で情報端末を使って宿題にいそしんでいるケースも珍しくありません。
実は、文部科学省は、4年の準備期間を経て配布するつもりだったのですが、コロナ禍等で情報端末の活用が社会全体から求められたこともあり、1年に短縮して前倒しで配布されたのです。社会の状況が情報端末の活用を後押ししたのです。高度情報化社会を生き抜いていく子どもたちにとって、もちろん歓迎すべきことです。
子どもたちの課題
今の子どもたちには様々な課題がありますが、まず、ネットの長時間利用について考えてみます。
厚生労働省は2018年の調査で、中学生の12.6%、高校生の16%にネット依存傾向があるとしています。同じ調査を昨年度、関西中心に10万人規模で実施しました。その結果、ネット依存傾向のある子の割合は、小学生(小4~小6)の14.1%、中学生21.4%、高校生26.4%でした。たった4年で急激な増加です。小学生ですでに4年前の中学生の割合を上回っています。
この調査は、アメリカのネット依存研究の大家、キンバリー・ヤング博士のスクリーニング調査を活用しています。このアンケートの調査項目をうんぬんする人もいますが、同じ調査で急激に増加していることがまずもって重要です。
この数字に私たち大人は真剣に向き合う必要がありますが、コロナ禍で、子どもにはネットしかなかったことを考えるとしょうがない部分も多いと考えます。コロナはある程度、落ち着いてきました。ここから、ネット以外の充実を私たち大人は考える必要があります。
私の調査では、子どものネットトラブルが最も少ないのは、文化祭、体育大会、合唱コンクールなどの行事が行われている期間だとわかっています。まだ調査の途中ですので、断定的なことは書けませんが、示唆に富む調査結果です。
コロナで、多くの行事が中止になりました。給食も黙って食べる習慣ができてしまいました。子どもたちはマスクになれて、顔の表情を読み取るのも難しくなってきています。働き方改革で揺れている教職員集団ですが、頑張りどころです。
また、2年前、学校から配布された端末を使って、いじめ自殺が起きたという報道が駆け巡りました。端末のパスワード管理に課題があったのではないか等、社会問題になりました。文房具が子どもに不利益を与えるのは絶対に避けなければならないのは自明なので、多くの自治体が情報端末ではチャットをできない設定にしました。一時避難的には致し方ないと思いますが、いまだに多くの自治体がそのままの設定です。
本来、文房具ですから、失敗から学ぶ部分があって当然です。ネットでの誹謗中傷は、今の日本では大きな課題です。悪口を書いてはいけない等を子どもに教えるのは急務です。しかし、それができない状況にあることは大きな課題だと感じています。
大人が英知を結集して
教育関係者は手をこまねいているわけではありません。対策を急いでいます。例の1つとして私たちの尼崎市での取り組みを紹介します。
尼崎市も他の自治体と同様、ネットいじめやネット依存等の課題があります。そのための対策をしています。2か月に1回、産官学で対策会議を行っています。
「産」としてデジタルアーツ社(株)と内田洋行(株)。学校に端末を納入している内田洋行と、その端末にフィルタリングソフトを提供しているデジタルアーツ。「官」として尼崎市教育委員会の情報担当と生徒指導担当。「学」の兵庫県立大学から私と学生たちが参加しています。どういう課題があり、どういう対策が必要か、フリーに出し合い、それについての対策を考えています。
2022年度は2つの大きな成果があります。1つは学校ごとに、情報端末を使えない時間を設定できるようにしたこと。2つ目は、情報端末で使えない言葉を小中学生が考えて、一部の学校で「イエローワード(注意喚起)」「レッドワード(送れない)」を合計10単語設定したことです。
詳しい説明はここではできませんが、重要なのは、大人が英知を結集して対策していることです。さらに重要なのは、その取り組みに子どもも参画していることです。私は、文部科学省が生徒指導の方向性を示す「生徒指導提要」の10年ぶりの改訂に執筆者としてかかわりましたが、ここで強調しているのは、子どもたちの「自己指導能力の育成」です。子どもが、子どもたち自身で生活の改善に努めることです。
未来に向かって
AIが進化しています。これからさらなる高度情報化社会に突入していきます。生き抜いていく子どもたち自身、それを支える大人、みんなで明るい未来を作り上げていきたいです。
私たちの社会は、子どものインターネット利用にはこれまでフィルタリングを代表とした「禁止・制限」を前面に出してきました。これからは、「利活用」を前提としていかなければなりません。
そういうことを念頭に、今、教育の世界では、「デジタルシチズンシップ教育」の必要性がしきりに語られています。デジタル環境でのシチズンシップ教育、つまり市民性教育の必要性です。
自転車には、「三輪車」「補助輪」「公園での特訓」…という「自転車教授法」が日本中にあります。そのため大きなトラブルなく子どもたちは自転車に乗れるようになります。スマホを含めた情報端末にはまだありません。家族ごとに、学校ごとにそれぞれが試行錯誤を繰り返している、そういう状況です。
私の尼崎での実践も、もっと言えば、ここでの記載も試行錯誤の一部で、私が正しいとは限りません。しかし、私なりに精一杯考え、学生たちと精力的に取り組んでいます。試されているのは私たち大人、です。
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