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2022年度上半期ドラマ座談会後半(7月クール)

調査情報デジタル

【2022年度上半期のドラマについて、メディア論を専門とする研究者、ドラマに強いフリーライター、新聞社学芸部の放送担当記者の3名が語る。「初恋の悪魔」をめぐる様々な考察も展開】

影山 貴彦(同志社女子大学教授)
田幸 和歌子(フリーライター)
倉田 陶子(毎日新聞記者)

「石子と羽男」、「初恋の悪魔」

編集部 7月ドラマについてお伺いします。
 
田幸 まず、「石子と羽男」(TBS)です。有村架純さんと中村倫也さんの掛け合いがすばらしくて、そこに赤楚衛二さんたちが加わるというチームの楽しさがありました。

 現在、本当に身近で起こり得る小さな話題、それが大ごとになっていってしまうのを描いているのがすばらしい。役者さんの掛け合いの部分と、脚本と、全体にバランスがいい作品でした。

 あとはやはり「初恋の悪魔」(日本テレビ)。本当に難しくて、私は4話ぐらいからグーッと面白くなりました。なぜなら1~2話までだと、登場人物それぞれの背景やつながりが全然見えないんです。そのつながりが見えてきてからは、もう坂元裕二さんの作品の面白さに引き込まれました。最初の方を見ただけではわからず、見続けてこその快感がどんどん増していきました。

 林遣都さんと仲野太賀さんが主演なんですが、そこに松岡茉優さん演じる多重人格の人物が入ってきて、こちら側では消えてほしい、こちら側ではいてほしい。彼女を挟んだ裏表で、二人が真逆に見えてリンクしてくる構成は、後半に行くにつれグッと面白くなるんですけど、そこまで見続けた人が少ないのがもったいない。あとタイトルからどんな作品なのか分からないのも不利だったと思います。

 いい作品なのにタイトルが不利、という点では「純愛ディソナンス」(フジテレビ)もそうです。タイトルから恋愛物だと思った人や、メインの役者さん二人が若いので、自分たちの物語じゃないというのでやめた人、いろんな意味で最初から見ている人がすごく少なかった印象です。
 
 でも、これが実は物すごく見やすくって、やめられない、とまらない系の面白い作品だったんです。第1話のラストでいきなり人が死んでびっくりして、あっ、何だこれ、サスペンスだったの?と思ったら、その犯人は早々にわかってしまって、なんだかもう先が全く読めなくて、スリルもあって、面白い。役者さんもそれぞれハマリ役でよかったんですが、何しろ見ている人があまりにいないというもったいなさでした。

生と死をめぐる2作品

田幸 そしてNHKはやはり違うなと思ったのが「空白を満たしなさい」。これをつくることができるのは、やはりNHKしかないと思います。

 平野啓一郎さんの原作は、そんなにスイスイ読めるものじゃなくて、ボリュームもかなりあります。死んだはずの人間が生き返る世界を描いて、生と死の意味を問う作品で「分人」という概念が出てくるんです。

 意味するところは、同じ人間でも、誰に対するか相手によって見せる顔が全然違ってくる、誰もが自分の中にいろんな人格を持っているということなんですが、それが哲学的で結構難解なんです。

 それをたった5話で凝縮させて描いている。しかも、「分人」という言葉をたしかドラマでは使わずに説明してみせているんです。脚本の高田亮さんが、とにかく処理がお上手で、うならされました。

 同じように死と生を描いた作品で、「ももさんと7人のパパゲーノ」もよかったです。これもNHKですが、全く別のところから出発しているのに、描いているのは「死にたい自分も否定せず、自分の中の暗いもの、闇の部分も一緒に、抱えたまま生きていこうよ」ということで、なぜかこの2作品がリンクしていました。脚本の加藤拓也さんは、「きれいのくに」(NHK・2021)も書いた方ですが、会話がまた物すごくリアルでいいんです。

 「ももさん」の方は、NHKならではの「自殺と向き合う」というサイトに寄せられた投稿や、当事者への取材をもとに描いています。本来であればドキュメンタリーでやるような題材を、あえてフィクションにしている。それによって、メッセージが届く相手や、届き方が違うだろうという点で、フィクションにした意味は大きいと思います。対で見ておきたい2作品でした。

「あなたのブツが、ここに」に感じたこと

倉田 私も「初恋の悪魔」を挙げたいです。最初の2、3話までは、4人の主な登場人物が、ちょっと変わったキャラクターなので、キャラクターの面白さで見せるのかな、内容としては事件解決の一話完結ものなので、何となく淡々と見るしかないのかなと思っていました。

 それが、登場人物たちの関係性が絡み合ってきて、仲野さん演じる人物の兄の殺人事件も全体の流れに加わってきて、さらに松岡さん演じる女性の多重人格も絡んできて、もう物語がどんどん複雑になってくる。

 坂元さんの脚本は、最初はわからなかったことが、後からどんどん加速度的に絡み合い、複雑になってくる。それでも、すごく共感も覚える感じになっていくので、最初のほうで離脱した方はほんとに損だと思うんです。最終回には頑張って見続けてよかったというご褒美がもらえるんじゃないかと思いながら、毎週楽しみにしています。

 二つ目に挙げたいのは、「あなたのブツが、ここに」(NHK)です。コロナ禍の2020年から物語が始まって、主人公が勤めていたキャバクラなどの飲食店がどんなに壊滅的な状態になっていったかとか、コロナがもたらす暗い側面を描くのかと思っていたら、主人公がめちゃめちゃ関西の女の子なんです。

 シングルマザーで子どもを育てなきゃ、ということはもちろんありますけど、すごいガツガツ行くんですね。そこがすごく頼もしい。宅配の仕事を始めて、出会う先のオッチャンとかオバチャンとかも、実際に会ったことはないんですけど、あっ、何か関西にいるわみたいな感じがするんです。その辺の人物の描き方がリアルでした。

 コロナとどう向き合うのかという問いに正解がない中、このドラマを見ることで、正解は見つからないかもしれないし、見つからないとは思うんですけれど、「主人公はこういうふうに生きているけど、あなたはどうやって生きていく?」と問いかけられているような、「前向き」というのじゃないですけど、自分はどう生きていくか、そういう深い問いかけを感じました。

 あと、気になっているのが「ユニコーンに乗って」(TBS)と「家庭教師のトラコ」(日本テレビ)です。「教育」というテーマで捉えたときに、どちらも教育格差というものが、メインのテーマではないかもしれませんが、一つのテーマになっています。別々の民放の局が、この時期に教育格差を作品に取り込んだことには意味があるかと感じます。

 日々のニュースや、オリンピックにかかわる汚職、その他の不祥事、事件などを見ていると、若い世代が将来に対しての希望や、自分たちはこういうふうにすれば幸せになれるといったビジョンを描きづらくなっていると思うんです。けれども、教育によってそこは大分埋められるのではないか、と私自身考えているところもあって、教育格差をなくしていこうという静かなメッセージをこの2作品から感じました。

気になる視聴者の反応

影山 「石子と羽男」はすばらしいドラマでした。数字が全てではないといつも言っていますけど、これはもっと数字が取れないとおかしいやろという気がします。

 田幸さんもおっしゃったように、小さい話からワーッと広げていって、社会全体での違和感や問題点をあぶり出していくという手法で、西田征史さんの脚本もいいですし、主演のお二人もすばらしい。何よりも一話完結のストーリーが本当によくできています。「うまいなぁ」と思わず膝を打つみたいな「やったぁ」というようなドラマです。見ていてとっても気持ちがいい。

 それから「初恋の悪魔」。お二人が熱く語ってくださったから、僕はやや温度低めで言うと、おっしゃるとおりで、最初の数回、大丈夫かこれはと。しんどいんちゃうかと。

 そう思っても見続けるのは僕がドラマ好きで、しかもこういう仕事をしているからで、そうじゃない人、テレビ離れの若者たちが「このドラマ見てね」と言われて、見るかと言ったら、なかなかあんまり見ないように思います。

 いろいろと風呂敷を広げて、どこで回収すんねんと。倉田さんがご褒美とおっしゃったけど、そのご褒美まで若い視聴者は待てないやろと。それは「17才の帝国」(NHK・2022)に相通じるかなという気もします。

 もちろん作品としてはすばらしいんです。この座談会の記事が出るのはドラマが終わった後ですから、見事に全てを「ああ、そういうことなんだ」とおさめてドラマを終えるんだろうとは十分感じてはいるんです。

 そして「空白を満たしなさい」ですが、この間ギャラクシー賞の審査会があったんですけど、玄人目にはこの作品がやっぱり一番いいわけです。「空白を満たしなさい」はもうどこからも異論が出ない。

 ただ一点、別の観点からの感想を言うと、NHKの自殺防止キャンペーンの一環といった感じで、そんな平べったい言い方ではないですが「自殺をやめましょう」という呼びかけや、悩んでいる人の連絡先はこちらという情報がドラマの最後にありました。

 もちろんそれは大切で絶対に必要なことです。ドラマも最後にはしっかりとポジティブな考え方が描かれているんです。でも、重いです。作品がやっぱり重いので、僕はやっぱりドラマのエンターテインメント性が好きで、「ワーッ、すっげー面白い。この暗さがたまらない」とか、「これがいいんだよー」となるんだけど、ほんまに暗く落ち込んでる人があれを見たらどう思うかなとは感じました。

 そして「あなたのブツが、ここに」。大阪の人情物語なんですけど、仁村紗和さんが、とてもよかった。関西人は、関西アクセントがちょっとでも違うと「違う!」みたいにうるさく言うんです。でも、この作品は、主役級3人が全員関西人なので、めちゃめちゃネイティブな関西弁。キムラ緑子さんも、お好み焼きのコテを使っているだけでもうええがなというか、(笑)それだけでもうさまになっている。

 朝ドラとの比較になってしまいますが、しゃべりがあろうが、なかろうが、画面に映っている出演者みんなに命が宿っているんです。「ちむどんどん」(NHK・2022)にあまり戻しちゃいけないけど、「ちむどんどん」で、フランス料理店の従業員が、急にやめたいとか、怒ったり嫌がらせしたりするんです。

 でも、すみませんけど、あなたのことを今まで全然認識していませんでしたという感じで、突然なんです。それは制作陣がそこに命を宿らせてないから、急に出てきてエーッみたいな置いてけぼり感が生じていました。その辺の丁寧さもあって「あなたのブツが」は、昔ながらのドラマ好きもうなる作品になっていたと思います。

ジェンダー観の変化

編集部 前回すこしLGBTのお話をして頂いたんですが、このクールも設定がそうである作品がいくつかありました。「プリズム」(NHK)がそうですし「オールドファッションカップケーキ」(フジテレビ)にも「みなと商事コインランドリー」(テレビ東京)にもそういう側面がありました。

田幸 物すごく普通になっているんですよね。「みなと商事」で驚いたのが、第1話で「ゲイです」と言って、そこに対しては何にもないんです。性別は全くネックになってこないのに、先生と生徒であったり、アラサーと高校生であったり、年齢や立場という点はハードルがかなり高い。これはもう2022年ならではだなと思いました。
 
 一方で、もはや飯テロのような楽しみの一つとして、いろいろ難しいことを言ったり、全然言いわけしなくていいから、やっぱり男の子たちのかわいいピュアな恋愛を楽しむ。おいしそうな御飯のドラマを見て、「ああ、うまそう」と言うのと同じような感じで、一つのコンテンツとしてもう成立している、そこはこの2年ぐらいで大きく変わったと感じます。

倉田 「みなと商事」はおっしゃるとおり、性別という点には、みんな何のわだかまりもなくストーリーが進んでいきます。

 一方「プリズム」は、杉咲花さんのお父さんはゲイで男性のパートナーがいるという設定ですが、藤原季節さんのお父さんは同性愛に対してやっぱり偏見がある。年齢的に50、60代かと思いますが、その世代には温度差みたいなものがまだあるんだろうと思わせました。

 その温度差、受け入れられないという人の気持ちも完全に否定してはいけないんでしょうけれども、やはりそこは変えていかなきゃいけない。描き方が変わっていくことによって、私たちの受けとめ方も変わっていくこともあるだろうと、この2作品を見比べて思いました。

「初恋の悪魔」は京都のお茶屋?

編集部 少し戻りますが「初恋の悪魔」についてお伺いしたいことがあります。今の視聴者はどれぐらい脚本家の「名前」で見ているんでしょうか。脚本が坂元裕二さんだから見ようという人はどれぐらいいるものでしょうか。

影山 推測の域を出ないですが、いかがですか。

田幸 坂元さんだから見たいという人は、かなり熱い人はいますが、やっぱりそこまで多数ではなく、かなりコアです。しかもファンをコアにさせている背景には、ものすごいドラマ好きの人たちが敷居を上げてしまっているという一部の現象があるように感じます。

 坂元裕二ファンというのは、これまでの作品のいろんな要素を重ね合わせて語るんですよ。それを読んでいくと、とても面白い一方で、予備知識がないと入れないんだぞという印象を与えるようなところがすごくあります。

 これも見て、あれも見て、見ているのが当たり前で、当然知ってるよねみたいな空気、一見さんお断りのような感じ。「何で坂元裕二ファンは全部過去の作品を語りたがるんだろう」みたいなことが時々SNSでも言われています。よく知りもしない人間がちょっと入っちゃいけないみたいな空気はどうしても感じます。

影山 京都のお茶屋みたいなね。

田幸 いろいろ読んで、いろいろ知っていくと面白くて、情報がふえればふえるほど面白くなるのは確かなんですけど、とりあえず試食したっていいじゃんというところはあります。

影山 よくわかります。

倉田 私の周りにも、坂元裕二作品だから見るという人と、坂元裕二作品だから見ないという人が。

影山 いますか? エーッ!

倉田 理由として、ファンの熱さがうざいみたいなところが要因なんですって。そこに乗り切れない自分がいて、置いてけぼり感があるらしい。それだったら、ほかのドラマを見るよ、ドラマはほかにもたくさんあるんだしといった話を聞きます。

 確かに熱いファンがいるものってドラマに限らず、どんなコンテンツ、俳優やアイドルでも初心者は気が引けますよね、最初の一歩を踏み出す高い壁を感じている人がある程度いるのかもしれません。

影山 坂元作品だから見るということで言うと「カルテット」(TBS・2017)が5年前ですね。数字がそんなによかったドラマではないんですが、僕のゼミ生が全員見ていた。全員が見ていたから、これは面白いと思って、シナリオ本をゼミ費で買って、印象に残ったせりふについて一人ずつ発表させました。しかし今、ゼミ生は「初恋の悪魔」をほとんど見ていません。だから、この5~6年の間で何かが変わったのかもしれません。

 ただ、今年のゼミの4回生が「坂元裕二論」で卒論を書いています。ということは、ドラマ好きにとってみたら、坂元裕二は別格やでということを、若き視聴者であっても、知ってる人は知ってるんです。でも、裾野が広がっているかというと、パイがグッとふえているのではないと思います。

「オールドルーキー」「六本木クラス」

編集部 「オールドルーキー」(TBS)はいかがでしたか。

田幸 綾野剛さんはいろんなことができるんだと思いました。今までのイメージとも全然違って、やっぱりうまいなと。

倉田 本当に広い演技の幅を持っているのがよくわかりました。どちらかというと、アウトローのイメージが強かったのが、こんなに屈託なく明るいキャラも似合うんだと思いました。
 
影山 僕も楽しく見た人間ではありますが、例えば同じTBSの「石子と羽男」と比べたときに、「石子と羽男」は視聴者とともに感動を分かち合う感じなんだけど、「オールドルーキー」は、言うたら、つくり手の「さあ、どうぞ感動してちょうだいよ」というか、感動の先回りみたいなものにちょっと冷めちゃう視聴者もいたかもしれません。

 やや厳しい言い方ですが、日曜劇場は割とそういう癖があるというか……、それは決して間違いとかではないですけども、そのあたりが金ドラと日曜劇場の色合いの違いかなという気もします。

編集部 「六本木クラス」(テレビ朝日)はどうでしたか。

田幸 私は「梨泰院クラス」が大好きで、一気見するぐらいだったんです。「六本木」もカメラワークやセットは原作に忠実ですし、展開もそっくりなんですけど、本家に比べて全然「どん底」の時期がない。どん底感がないまま、サクサクとしたテンポで進むので、あんまり苦労している感じがなくて、その分うまくいったときのカタルシスが薄いと感じました。

 あと、本家に比べて竹内涼真さん演じる主人公が泣き虫で、大体涙目で、弱くて、全然頼りない。本家のパクセロイは、もっとずっと頼もしくて、カリスマ性もあれば、ちょっとわけのわからない怖さもある。不器用で、頑固で、厄介なところもある人なんですけど、竹内涼真さんの主人公はかわいいんです。

 私はそこに違和感がありましたけど、意外とみんなに受け入れられているポイントはそこなのかもしれない。絶対的なカリスマが引っ張る物語より、頼りないところをみんなが応援していくという方が日本のドラマ的だなという気もしました。

「僕の姉ちゃん」の1.5倍速封じ

影山 もう一作品言えば「僕の姉ちゃん」(テレビ東京)。黒木華さんもハマリ役だし、杉野遥亮さんのナチュラルな演技がいい。何ということはないけど気持ちがほっこり明るくなる作品で、それはすばらしいつくり手、演者の力があってこそだと思います。

田幸 「僕の姉ちゃん」が新しいなと思ったのは、今はYouTubeなどに慣れていて、1.5倍速で見る人が多いですよね。そういう人への対策として、ともすれば、こけおどしや、ぶつ切りでちょっとずつ衝撃的なものを重ねていく方向やいわゆる考察ものに走りがちな中、日常系のまったりを描いた。

 日常のまったりは1.5倍速では見ませんよね。見ることによって気持ちよくなるドラマというのは、作り手がみんな悩んでいる1.5倍速対策の一つの答えなんじゃないかと思います。

影山 その言葉を教え子たちに伝えたいです(笑)。1.5倍速、倍速近くで見て「君ら、どこでキュルキュル飛ばしてんねん」。キュルキュルは古い言い方ですけど。「どこを飛ばすねん」て聞いたら「しゃべってないとこ飛ばします」と言いました。歩いているストロークとかも全部飛ばすわけです。だから、ほっこりとした味わいというのを本当にぜひやってほしいと思います。

倉田 1.5倍速対策ですが、先日、映画「百花」の川村元気監督にインタビューしたんです。ワンシーン・ワンカットで撮った作品なんですが、なぜそうしたかというと、この5年ぐらいで映像の見られ方が全く変わってしまったとおっしゃるんですね。

 若い人はドラマとか映画を見ず、YouTubeばっかり見ている。YouTubeではもうマシンガンのようにみんながしゃべって、とてつもないテンポでカットが変わっていく。それに慣れた世代に対して、ワンシーン・ワンカットという手法は、新たな映像体験になるんじゃないかと話されたんですけれども、田幸さんがおっしゃったことにまさに当てはまると思います。

印象に残った俳優

編集部 気になった俳優さんはいかがですか。

田幸 よかったのは「ロマンス暴風域」(MBS)の渡辺大知さん。風俗嬢に恋する男の役です。ちょっと気持ち悪かったり、かなりダメダメな男も、渡辺さんが演じると本当にリアルで身近にいる感じがして、どこか憎めなかったり、許せてしまったりする。そういう市井の人を演じさせたら渡辺さんは今トップクラスだと思います。

 あとは「あなたのブツが、ここに」の仁村紗和さんが、初主演とは思えないぐらいナチュラルで、エネルギッシュで、今後注目していきたいです。

倉田 仁村さんにインタビューしたことがあるのですが、すごく落ちついたトーンの受け答えでした。私は事前に「あなたのブツ」の脚本を読ませてもらっていたので、この落ちついた感じの人が、関西のチャキチャキの女性をどう演じるんだろうって若干心配じゃないですけど、すごく不思議に思っていたんです。

 ところが、実際ドラマを見たら、完全に主人公になり切っていて、インタビューのときの仁村さんはどこに行ったんだろうぐらいのすごい演技力を感じました。

田幸 あとは単発ドラマですが「アイドル」(NHK)の古川琴音さんはよかったですね。

影山 よくぞ挙げてくださった。これは本当に挙げておかないといけない人ですね。

田幸 作品もいいですし、古川琴音さんは見ようによって、本当に顔も雰囲気もガラッと変わる。何色にでも染まれる透明感が稀有な存在です。声もいいので、彼女がしゃべると思わず見ちゃいますね。目も耳も引きつける今後すごく楽しみな女優さんだと思います。

影山 もう一人挙げると「オクトー」(読売テレビ)の飯豊まりえさんがすっかりいい女優になっているというか、頑張ってきているというイメージです。ちょっと感情を押し殺した、実年齢よりも少し上ぐらいの刑事役でしたけど、健闘していると感じました。

コロナとドラマ、社会の変化

影山 最後にもう二点ほど。一つはコロナとドラマについてです。登場人物がマスクをつけている作品もいくつかはありましたが、僕の知る限り、マスクなし、あるいはコロナに一切触れない作品が圧倒的に多かったと思います。

 その中で、「あなたのブツが、ここに」は、マスクのつけ外しさえもリアルに描いているんです。あれは多分わざとだと思うんですけど、宅配しながら、マスクから鼻だけ出すとか、中途半端に下げるとか、それはもちろん褒められたものではないんですけど、それが等身大の今の姿なんだといっているように思いました。

 こういったことは、やろうとしたらできるけども、あえてその選択肢をとらないドラマのつくり手もいると思います。難しいんです。視聴者の中には「コロナのことはええねん」と引く人もいると思います。なので、あえて触れない。

 「ドラマは何か楽しいことをやってほしい」という気持ちはもちろんわかります。でも、楽しくある、元気になるというところと、コロナを等身大で描くというところをちゃんと共存させたという意味で、あのドラマの意義は大きいと思います。

 もう一点は、江口のりこさん主演の「ソロ活女子のススメ2」(テレビ東京)についてです。これは僕の感覚ですけど、1のときよりも2の方がソロ活に対してすごくナチュラルになっているんです。(注:1は2021・4~6放送)そのことはドラマの中でも言われています。1のときは、「えっ、ソロ活なんですか?」ってちょっと引くみたいなところもありましたけど、2では「みんなそれぞれソロ活しますよね」みたいな感じです。

 社会全体で、コロナもあって「ソロ活」が等身大のよくある存在になってきている。ドラマが社会を映す鏡になっているのを、こういう描き方の変化に出会って、あらためて感じ取りました。

(了)

<座談会参加者紹介>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職
朝日放送ラジオ番組審議会委員長
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。Yahoo!のエンタメ個人オーサー・公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。

倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、東京本社生活報道部などを経て、現在、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。

 <この座談会は2022年9月12日に行われたものです> 

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chousa@tbs-mri.co.jp


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