TBS新型コロナ調査報道班が大切にしてきたこと
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TBS新型コロナ調査報道班が大切にしてきたこと

【未曽有のコロナ禍。TBS新型コロナ調査報道班は「見えなかったこと」「声なき声」を伝えてきた。医療従事者の協力による密着取材の記録】

山岡陽輔(TBS報道局編集部 統括編集長)

はじめに

 「新型コロナ調査報道班」は去年春に結成された。最初はTBSの社会部員が日常の業務から外れて取材にあたっていたが、7月からは報道局横断のチームになった。
 新型コロナを巡る動きは目まぐるしく、どうしても日々の感染者数や、国・自治体の動きを報道することに手一杯になりがちだ。「それではいけない」との思いから見切り発車したこのチームのメンバーは、いわば“寄せ集め”。医療や科学の専門知識を持つ記者は一人もいなかった。社会部員のほか、外信部や政治部、デジタル編集部に所属する記者、アナウンサーにも加わってもらい、メンバーを入れ替えながら取材を進めていった。ただ、デスクとサブデスクは、社会部の岸慶太郎と藤野智史、編集部の亀卦川佳史の3人に固定し、私と一緒に取材指揮にあたった。

「見えないことを見せる」

 毎日、大量に流れるコロナ関連のニュース。そこからは「見えないことがある」と私は感じていた。「見えないことを見せる」ことはテレビ報道の役割で、行政の問題点や企業の不祥事はその最たるものだ。
 でも、人知れず頑張っている人たちの姿や、“社会の片隅”で苦悩している人々の営みも、テレビが報じなければ明るみにでることは少ない。「新型コロナ調査報道班」のメンバーには、「まず、それをやろう」と伝えた。「人の顔が見える形で、現場を描いていこう」と。

【引き続き「医療現場で『見えなかったこと』」に続く】

医療現場で「見えなかったこと」

 感染の第一波が襲ったとき、医療機関への取材は、ごく限られたものだった。病院から映像を提供してもらい、院長ら責任のある立場の人に、リモートインタビューで状況を話してもらう。その繰り返しでは、最前線に立っている医師や看護師がどんな人たちなのか、どんな思いで闘っているのか、医療現場が本当はどんな状態なのかが伝わってこないと感じていた。「医療崩壊」とは言うけれど、私たちは、それが実感できるような報道をほとんどできていなかった。
 それを覆したのが、普段は司法クラブで裁判を担当している神保圭作記者が取材した、聖マリアンナ医大病院コロナ専用ICUの密着企画だった。神保記者は、まず、ICUを指揮する森澤健一郎医師に取材意図を話し、「伝えたい」という熱い思いを聞いてもらったという。そして、どうすれば取材スタッフの感染を防ぎ、かつ、現場に負担にならないように現状を映像で伝えられるかを一緒に探っていった。その結果、森澤医師にスマホのカメラを持ってもらい、ICU内をリモート中継しながら撮影してもらうことにした。そうすれば、ICUの外からリモートで神保記者が森澤医師に質問することができ、森澤医師が映し出す映像の意味を一つ一つ確認することができる。

5②画像②森澤医師

(森澤医師)

 大がかりな機材ではなくスマホのカメラで、しかも普段からそこにいる森澤医師が撮影することで、コロナ専用ICUのありのままの状況を捉えることができた。その映像には、感染防護衣を着込んだ医師や看護師らが、誰一人、手を休めることなく黙々と対応に当たる姿が映し出されていた。森澤医師がつぶやく。「スタッフたちの気持ちに乗っかって、なんとか現場が保てている。このままではどこかで心が折れてしまう。それまでの間にシステムを作り、対応する必要がある」。私たちは初めて「これが医療崩壊か」と実感した。

5②画像③聖マリコロナ専用ICU内部

 最前線の医療スタッフたちの真摯な姿に心を打たれた神保記者は、3年目の若い看護師・山添美奈子さんの密着取材を行った。山添さんは、同じく看護師だった母の「患者に寄り添う姿」を手本にこれまで看護をしてきたが、接触することもままならないコロナ患者にどうすれば寄り添えるのか悩んでいた。さらに、感染を防ぐために患者に会えない家族の心にも思いを馳せていた。これだけの現場で、仕事の過酷さを嘆くのではなく、十分に寄り添えていないのではないかという現状を憂いていたのだ。そんな現場のスタッフたちが考案したのが、タブレット越しに患者と家族が面会するシステムだった。タブレットを介しての再会を喜ぶ患者と家族。しかし、その面会が「最期の別れ」になることもある。画面に映し出された患者に向かって「よく頑張ったね、おうちに帰ろう」と家族が声をかける。 

5②画像④タブレット越しの別れ

5②画像⑤山添美奈子さん

(山添美奈子さん)

 この「タブレット越しの最期の別れ」と山添看護師の思いを伝えたNEWS23の特集には、大きな反響があった。TBS NEWSのユーチューブでは500万回以上も再生され、医療従事者への感謝の言葉や、こうした企画をもっと放送すべきだとのコメントが、数多く寄せられた。その後も神保記者は、この病院のスタッフ一人一人に焦点を当てた取材を1年間続け、この春、40分余りのドキュメンタリーにまとめあげた。

「声なき声」を届ける

 普段はデジタル編集部でインターネット用の記事などを担当する樋口翼記者と中野光樹記者は、コロナ禍で貧困に陥ってしまった人たちと、そうした人たちの支援に奔走する反貧困ネットワークの事務局長・瀬戸大作さんの密着取材を行った。
 瀬戸さんの車に同乗していると、一晩のうちに何人もの人が支援を求めて乗り込んでくる。20代の若者も、母親も、外国人もいる。そんな人たちに当面の食費を渡す瀬戸さん。その言葉が重く響く。「辛いですよ。これで解決にならないことが分かっているから辛い。とりあえずつないでるだけで、解決になってないじゃないですか」。コロナ禍の貧困、その根深さが見えた瞬間だった。
 “社会の片隅”で声をあげられない、声をあげてもなかなか届かない…そんな「声なき声」を聞こうとすること、そして支援する人々の姿を伝えることも、私たちの取材活動の柱だ。
 「新型コロナ調査報道班」が結成されて1年。情報源やスキルは蓄積され、今でこそ、視聴者の方から寄せられた告発を元に問題点を指摘する企画や、クラスターがなぜ起きたのかの検証なども行えるようになってきた。ただこれからも、「見えないことを見せる」ため、じっくりコロナと向き合っていこうと思っている。

<執筆者略歴>
山岡陽輔(やまおか・ようすけ)
東京都小平市出身 1969年6月10日生まれ。
1995年入社 情報システム部、朝の情報番組担当を経て報道局へ。社会部・報道特集・Nスタ・NEWS23などで記者・ディレクター・デスク・編集長を経て、2020年7月、統括編集長となる。新型コロナ調査報道班ではプロデューサー兼デスク。今年3月には、東日本大震災10年プロジェクト「つなぐ、つながる」の総合演出兼プロデューサーも務めた。過去に、製紙各社が古紙配合率を偽装した“エコ偽装”告発報道(2007年度ギャラクシー賞報道活動部門選奨)、戦後70年千の証言スペシャル「私の街も戦場だった」総合演出(2014年度ギャラクシー賞テレビ部門選奨、2015年日本民間放送連盟賞番組部門テレビ報道優秀)など。

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