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<シリーズ SDGsの実践者たち> 第31回 高校生が特許取得「携帯自立型水力発電機」をケニアへ

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【工業高校の生徒が水車による携帯自立型発電機を開発し、特許を取得。ケニアの無電化地域への支援に乗り出した】

「調査情報デジタル」編集部

ケニアの子どもたちのために発電機を届ける

 大分県立大分工業高校で、2年前から生徒有志が取り組んでいる「DAIKO水車プロジェクト」。使用済みペットボトルや伐採した竹などを使って、水車の仕組みを使った小型の水力発電機を開発してきた。

木製の初号機

 発電機は設計から材料の加工、組立、電気の回路まで、生徒がゼロから作り上げたもの。木製の初号機から、現在は3Dプリンターで部品を作った2号機へと進化している。発電した電力は一旦モバイルバッテリーに蓄電して使えるようにした。

2号機で発電した電力でランプを灯す

 3学期の終業式が終わった日の午後、生徒たちは外部から講師を招いて、水力と太陽光の両方で発電して、充電ができる回路の作り方を学んでいた。その目的は、ケニアの無電化地域を支援するためだった。

充電のための電気回路を試作する生徒たち

 「DAIKO水車プロジェクト」の活動は、さまざまな全国コンテストで最優秀賞や優秀賞などを受賞してきた。2023年8月には、歌手のさだまさしさんが東日本大震災をきっかけに立ち上げた「風に立つライオン基金」による「高校生ボランティア・アワード2023」の全国大会で、特別賞を受賞した。

「高校生ボランティア・アワード2023」授賞式(大分工業高校提供)

 すると、審査員を務めていたアフリカで医療支援を行う医師から、この技術をケニアに届けたいと依頼があった。生徒を指導する佐藤新太郎教諭が次のように説明する。

 「審査員だった医師から、ケニアの無電化地域で生活しているこどもたちが夜に照明を使って勉強できるように、水力と太陽光のハイブリッドの発電機を作ってほしいと依頼を受けました。今、ケニアは地球上で最も温暖化の影響を受けていて、異常気象が続いて深さ4メートルの川が干上がっているそうです。そこで、大雨が降る時期でも雨が降らない時期でも発電ができて、バイク用のバッテリーに蓄電できるシステムを作っています」

 生徒たちが開発した水車は、1機あたり最大出力で8W、平均で5Wの発電が可能だ。iPhoneであれば、水車を2時間半回して発電すればフル充電できる。ケニアでの利用を想定しているLEDのランタンほどの照明であれば、水車を1時間回して発電することで1晩は利用できるという。雨が降らない時期は太陽光で発電すれば、ほぼ常時電気が使えるようになる。

水力と太陽光が同時に充電できる回路

電気を作ることの難しさを痛感

 そもそもこのプロジェクトは、通学路の照明がない場所に、水力発電によって使える防犯灯を作ることを目指して、2022年に立ち上げられた。きっかけは、地球温暖化の防止に何ができることがないかを考えていたときに、夜間に街灯がなく暗い通学路で女子生徒が襲われる事件が起きたことだった。プロジェクトリーダーの細石樹成さんが当時を振り返る。

リーダーの細石樹成さん(左)

 「事件が起きた現地に調査に行くと、そばに川があったので、水力発電で街灯を作ることを考えたのが最初です。プロジェクトを進めていくうちに、日本は水車に適した地形をしているのに、なぜ水力発電が盛んではないのだろうと疑問を持つようになりました。せっかく恵まれているのに使われていないのはもったいない。水車を人々の暮らしに生かしたいと考えて “CHANGE THE LIFESTYLE”をテーマに掲げています」

2022年7月の現地視察(大分工業高校提供)

 この現地視察の後、佐藤教諭が担当している発明家養成講座に、機械科や電子科の1年生から3年生までが集まって、インターネットなどで調べながら水車と発電機の開発に取り組み始めた。2022年の夏休みをほとんど全て水力発電機づくりに費やして、試作品が完成し、現地の川に設置した。しかし、発電できたのはごくわずかな電力だけだった。

 「夏休み期間を全部使って完成させましたが、豆電球1つくらいしか電気がつきませんでした。あんなに頑張ったのに豆電球か、という感じで悔しかったです。これだけの電力では防犯灯どころではないと思いました」(細石さん)

 ただ、開発はまだ始まったばかりだった。この時は発電機と電球を直に繋いで、水車を回した間だけ電気が生まれる方式だった。そこから、生徒たちが水車を作っていることを知った人や、大学教授など、多くの人から技術指導を受けたほか、佐藤教諭の知人からは3Dプリンターが寄贈された。

寄贈された3Dプリンター

 さらに、大手メーカーをすでに退職し、ネパールの無電化地域に小水力発電機を作ったことがある高校のOBと知り合うことができて、発電した電気を蓄電した上で使った方がいいと助言をもらった。この助言が一旦バッテリーに充電する改善につながった。消費電力が大きい防犯灯に使うにはまだ工夫が必要だが、ケニアでの活用には目処がついた。

携帯自立型を開発し、特許を取得

 河川で使用する際には、十分な電力の確保以外にももう1つ高い壁があった。それは水利権の問題だ。河川の流水を使用する場合には河川管理者の許可を得なければならない。ところが、小水力発電機を常設するのは、増水などで流される場合もあるため、なかなか許可が出ない。当初は常時河川に浮かせて発電をすることを考えていたが、そのままでは使うことができなかった。

 そこで考え出したのは、発電機に足を付けて、水が流れ込む場所などに設置できるようにすること。同時に簡単に持ち運べるようにしたことで、発電しないときは撤去できる。一定の時間だけ発電し、蓄電池の充電が終われば移動する方法によって、水利権の問題はある程度クリアできる可能性が出てきた。

発電機に足をつける(大分工業高校提供)
現地での実証実験(大分工業高校提供)

 しかも、こうして誕生した携帯自立型発電機は、文部科学省や特許庁が開催した2022年度の「パテントコンテスト」で優秀賞を受賞した。足を作ったことが良い特許になると評価を受け、弁理士のサポートのもとで2023年2月に特許を出願すると、7月に登録。全員がそれぞれ特許権者となり、8月に特許証を受け取った。特許を取得したことが「高校生ボランティア・アワード2023」の受賞にもつながり、ケニアの支援へとつながった。

メンバー全員に特許証が届く(大分工業高校提供)

「僕たちだけでは乗り越えられなかった」

 特許を取得した後も、発電機のさらなる改良を進めている。この日外部から訪れていた講師は、大分県宇佐市で小水力発電の企業を経営する田中克典さん。田中さんは生徒たちの取り組みの意義をこう表現した。

指導する田中克典さん(左)と佐藤新太郎教諭(右)

 「大きな意義が2つあると思います。1つは5Wという電力であれば自分たちで作れることを社会に伝えていることです。もう1つは、電気を作ることを自分ごとにしていることですね。自分たちが開発した水車とはんだ付けした回路で電気が作れる経験をしているのは、大事なことではないでしょうか」

 佐藤教諭も、生徒たちが得たものの大きさを実感している。

 「100Vの電源が日本にはたくさんありますから、日本人は何もありがたみを感じていないですよね。でも、彼らは電気を作ることがこんなに大変なのかと身をもって感じることができたと思います」

 現在のメンバーは4月から全員3年生に進級する。細石さんは今後の抱負を次のように語った。

 「僕たちだけでは乗り越えられない壁がたくさんありました。それをきょう来ている田中さんや多くの人と知り合っていくうちに、ひとつひとつ達成できているので、人とのつながりは大事だと思っています。

 これからの目標は、新1年生に水車プロジェクトの楽しさを伝えて、部員を増やして活動を継続していくことと、ケニアの人々が僕たちの水車を活用する暮らしを実現することです。

 さらに、最も重要なのは、当初の目標だった水車の電力による防犯灯を設置することです。僕たちの活動に関心をもってくれた他の生徒たちが、防犯灯を開発するプロジェクトを進めてくれています。水車で防犯灯を照らすことをみんなで達成したいですね」

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chousa@tbs-mri.co.jp


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