東京オリンピックの注目ポイント
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東京オリンピックの注目ポイント

【様々な議論の中、東京オリンピックが近づいている。注目すべき競技、アスリートは?スポーツライターによるナビゲーション】

佐藤 俊(スポーツライター)

 7月23日からいよいよ東京五輪が開幕する。
 大会前は開催の是非を含めていろんな声が上がったが、これからは各競技で選手の活躍に期待が膨らむ。東京五輪では33競技339種目が行われるが、その中でも注目すべき競技、選手を選んでみた。

男子サッカー、メンバーは「過去最強」

 まず、大会開幕前の22日にスタートする男子サッカーだ。
 メキシコ五輪以来、53年ぶりのメダル獲得を目指す男子サッカーは、U-24日本代表が出場する。U-24日本代表になっているのは、FIFA(国際サッカー連盟)がW杯との差別化を図り、五輪を通常23歳以下の代表と規定しているからだ。今回は1年延期になったので、24歳以下の選手での編成になっている。
 18名という少数精鋭での戦いになるが、チームの主力は久保建英、堂安律らの9名の海外組に加え、昨年Jリーグ優勝に貢献し、ブレイクした三笘薫、田中碧らの国内のJリーグでレギュラーポジションを獲得している選手が名を連ねている。ここに年齢制限がないOA(オーバーエージ)として吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航が入っている。彼ら3人はいずれも日本代表の中心選手で、吉田は北京五輪、ロンドン五輪に次いで3大会目となり、酒井はロンドン五輪に次いで2回目、遠藤は前回のリオ五輪の時のキャプテンで実力も経験もある選手だ。
 90名以上の候補選手の中から選ばれ、かつ実力者が集まったことでチームは「過去最強」との呼び声が高い。ロンドン五輪で4位を経験した吉田も「今回のチームの選手は若いが経験もあり、力もある。メダル獲得に向けて楽しみなチームになった」とチームの可能性を高く評価している。

【引き続き、「陸上男子リレー、柔道、女子卓球」に続く】

「死の組」でのメダルへの挑戦は・・・

 しかし、メダルへの道程は厳しい。
 グループステージは、南アフリカ、メキシコ、フランスという世界の強豪国が集まり、「死の組」とも言われている。4チームの中で2位内に入ると決勝ラウンドに進出できるが、「予選突破における初戦の重要度は70%」と遠藤が語るように、まずは初戦の南アフリカ戦での勝利が必須になる。負けると後がなくなり、追いつめられた中、メキシコ戦、フランス戦での勝利が必要になる。だが、勝てば勢いがつき、つづく試合も気持ち的に余裕を持って戦える。また、団体競技のスタートとなるサッカーが勝てば、その後の野球、ソフトボール、バレー、バスケット、ラグビーなどにも好影響を与えるだろう。
 「目標は金メダルしかない」と堂安は力強く宣言しているが、果たして悲願の金メダル獲得を実現できるか。来年のカタールワールドカップに向けて、ここからA代表の主力選手になる選手が出てくる可能性もあり、日本サッカー界にとって非常に重要な戦いになる。

期待膨らむ陸上男子リレー‐

 団体競技でサッカー同様にメダルへの期待が膨らむのが、陸上男子4×100mリレーだ。100mの個人種目としては、メダル獲得はかなりハードルが高いが、リレーは単純に100mの早さで勝負が決まるわけではない。バトンやコーナーリングの技術、チームワークが必要となり、日本はその部分で他国よりも長けている。北京五輪ではジャマイカが失格になるなどで銀メダルを獲得し、ロンドン五輪は4位に終わったが、リオ五輪は銀メダルを獲得した。2019年ドーハの世界選手権では37秒43でアジア記録を更新するなど、国別歴代ランキングではジャマイカ、アメリカ、イギリスに次ぐ4位。日本は今やリレー大国ともいっても過言ではない力を持っている。
 そのメンバーとなる選手は、100m9秒台を持つ実力派たちだ。
 男子100mの出場のメンバーである山縣亮太、多田修平、小池祐貴に加え、候補選手として、サニブラウン・アブデル・ハキーム、桐生祥秀、そして日本選手権で100m、200mともに2位と好成績を残したデーデー・ブルーノもいる。誰が出ても期待が膨らむ選手ばかりだ。

日本の強みは・・・

 日本の強さは豊富な選手層だけではない。日本のバトンはアンダートスのスタイルだが、流れるようなトス技術はもはや芸術の域に達している。バトントスのポイントについて小池は、「いかに後ろの走者を信頼してスタートを切れるか。この選手なら自分がスタートした時に追いついてくれるという信頼が重要です」と語る。また、チームワークでいうと、選手間の仲はすごくいい。「そういう仲の良さもリレーでは大事」と、小池はいう。
 「4継は、100mとは全く別物。個人種目の結果に少し影響されるので、いい結果が出るとリレーでもいい走りができる」
 桐生がそう語っていたように、100mの個人種目を戦う多田、山縣、小池にはまず個々の活躍が期待される。ちなみに4×100mリレー決勝は、8月6日陸上競技のトリを飾る。どの国が相手になろうとも悲願の金メダル獲得を達成し、世界に日本のリレーの技術と強さをアピールしてほしい。

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女子柔道、「格闘技少女」渡名喜風南への期待

 個人競技では、日本の国技である柔道に注目だ。
 期待値が高いのが7月24日、柔道競技の先陣となる女子48キロ級だ。田村亮子の時代から日本が強い階級だが、東京五輪では渡名喜風南が畳に立つ。
 渡名喜は、小学校時はミルコ・クロコップが好きで喧嘩では男子にも負けない「格闘技少女」だった。その頃から柔道を始め、中学時代に勝ち始めると負けず嫌いが増し、才能が開花。高校時代には得意技となる寝技と小外刈りを磨き、試合で緊張しすぎてしまうメンタル面も強化。今ではどんな大会、試合にもまったく緊張しなくなり、逆にテンションを上げるために顔をバチバチ叩くことがルーティンになっている。コロナ禍で1年間東京五輪が延長したこともプラスにとらえ、「延期の1年は精神面で成長ができました。自分の負けパターンとして試合中に負けてしまうかもという心の揺らぎがあったんですけど、それが今はどんな時もチャンスだと思うようになれたんです」という。
 初の五輪になるが、目標は「金メダル」。だが、そこに立ちはだかるのが、日本でも非常に人気があるダリア・ビロディド(ウクライナ)。実力はもちろん、モデルをこなす美貌と抜群のスタイルを持つ柔道家だ。ビロディドは172㎝、渡名喜は148㎝と24㎝の身長差がある。「手足が長いので自分の技がかけにくく、守りに入ってしまう」という苦手意識があり、昨年までは4戦4敗と歯が立たなかった。だが、相手の分析を重ね、道場で身長差のある選手と組手をすることで相手の怖さを克服。今年1月のマスターズ大会の準決勝で初めてビロディドに勝利した。ディストリア・クラスニチ(コソボ)というライバルもいるが、負けが続いたライバルから苦手意識を払拭できたことは大きい。
 「48キロはどの大会でも最初なので慣れています。勝って柔道に勢いをつけたいですが、自分はあまり気負わず、マイペースで戦います」
 あまり感情を出さず、喜んでいても仲間からそう見えないタイプ。決勝で勝った時、どんな表情を見せてくれるだろうか。

男子柔道、復活したウルフ・アロン

 男子100キロ級は、シドニー五輪で現男子日本代表監督の井上康生が金メダルを獲得し、リオ五輪では羽賀龍之介が銅メダルを獲得するなど100キロ超級とともに日本の柔道界を牽引してきた階級だ。
 ウルフ・アロンは、その100キロ級の男子代表選手。体の大きさは、幼少の頃から目立っており、小1で130㎝30キロ、小6の頃には160㎝90キロと規格外の大きさだった。中学2年まで体の大きさとパワーだけで相手を圧倒したが、年下の選手に敗れると自分自身を許せなくなって奮起。どうやったら勝てるようになるか、考えて柔道に取り組むようになった。東海大では4年時に世界選手権で優勝、19年の全日本選手権でも優勝するなど強さを増した。
 だが、その年の12月、ワールドマスターズの決勝で右膝の半月板損傷の重傷を負い、手術をした。通常通りに東京五輪が開催されていると危うかったが1年延期になり、リハビリに専念。今年4月、1年以上の期間を経て、実戦に復帰。「動きにくさや膝の怪我だったので怖さもありましたが、逆に練習を積み重ねていけばという感触もありました」と、東京五輪に向けてまずまずの手応えを感じたようだった。
 「五輪は4年に一度しかないですし、とても価値があるものだと思っています。柔道家として柔道がうまれた日本での五輪に出られることは僕の人生で1回きりしかないですし、僕自身の運もいいかなって思っているので、そういう舞台で優勝したい」
 ウルフ・アロンが金メダルを獲得すれば日本の柔道史上、初めてカタカナの名前の選手として歴史に名を刻むことになる。「考えて、負けない柔道家」を目指しているウルフ・アロンなら相手の対策をしっかり講じて、着実に金メダルへの道を歩むだろう。

女子卓球の「大魔王」

 メダルが確実視されるスポーツでは、女子卓球のシングルスも期待が大きい。
 日本からは石川佳純、伊藤美誠が出場するが、とりわけ注目度が高いのが現在、卓球の世界ランキング2位の伊藤だ。世界最強の中国勢に対して1歩も引かない強気の卓球で多くの中国人選手を打ち破り、中国では「大魔王」として恐れられている。「伊藤対策」として、伊藤を模した選手を練習相手として起用するなど、いかに中国が伊藤に対して警戒し、危機感を露わにしているか理解できよう。
 中国包囲網が強まる中、伊藤は順調に成長してきている。
 世界でも勝てる自信を得たのは、2018年世界選手権団体戦の決勝で劉詩雯に3‐2で勝ってからだ。「そこでの自信が膨らんで、そこからどんな相手でもどんな状態でも勝てると思うようになりました」と伊藤が語るように、次々と中国の選手を撃破していった。その年のスウェーデンオープンでは劉詩雯、丁寧を破り、決勝では当時の世界ランキング1位の朱雨玲を4-0で圧勝し、優勝した。昨年2月のハンガリーOPで優勝すると、つづくカタールOPでは、丁寧に第3セットで11-0という離れ技を見せ、勝利。決勝では世界ランク1位の陳夢に敗れたが、中国に脅威を与えるには十分だった。

 その強さを支えているのがメンタルタフネスだ。勝つことで自信が膨らんだのは間違いないが、我慢が重要だと伊藤はいう。
 「中国の選手はジュースとかで競り合った時、そこで取られてしまうと盛り返されてしまうので、そこで踏ん張れば自分のペースになると思って我慢しています。相手が勝っていてもタイムを使わせるとか、相手に追い上げられているみたいな流れにして精神的に押しつぶすようにしたいと思っています」
 今は、さらに楽しむことを重視している。
 「試合を楽しんでいるとメンタルもいいんです。楽しむことで余裕度が増えて、体が勝手に動くし、すごくいい状態で試合ができていると思えるので」
 メンタルだけではなく、技術と体力も一段と増した。コロナ禍で1年延びた中、基礎練習を繰り返すことでフットワークとスウィングが早くなり、新たなサーブもマスターした。
 伊藤は、独自の練習で力をつけ、本番の日を迎えようとしている。
 「五輪は、どうなるのだろうって、ワクワクしています。中国人選手は五輪や世界選手権は負けられないので緊張するんですよ。私は、そこはプラスに考え、楽しくやれる。早く試合をしたいですし、五輪を戦いたいですね」
 東京では、中国勢を相手に大魔王が大暴れしそうだ。

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マイナースポーツにもぜひ注目を

 個人的には、東京五輪ではマイナースポーツで頑張っている選手にぜひスポットライトを浴びてほしいと思う。五輪で活躍すれば、日が当たるようになり、競技に何かしらプラスの影響が出るからだ。
 カヌーと言えば、リオ五輪スラロームのカナディアンシングルで銅メダルを獲得した羽根田卓也が有名だが、足立和也はカヤックのスラロームの選手。カヤックは、パドルの両方に水かきがついており、人工の水流の中、ゲートをくぐるタイムと技術を争うスポーツだ。
 足立は、駿河台大を中退後、コーチとともに山口県萩市に移り住み、バイト生活をしながら競技に集中した。家賃8000円の長屋に住み、今も自宅のある関東と行き来している。「五輪で多くの人にカヌーをアピールして、楽しんでもらえる環境作りをしたい」と結果を出すことはもちろん、次の世代に向けての環境作りを考えている。東京五輪でメダルを獲得すれば、より良い環境でカヌーを継続できるチャンスをつかめるはずだ。

 ウインドサーフィンの須長由季は、横須賀のさいか屋にあるミキハウスで働きながら活動している。コロナの影響で昨年、1年延期になったが、その際、コーチ、合宿、遠征などの強化費用が足りず、スポンサーを探した。コロナ禍で各業界が冷え込む中、簡単には見つけられずに困っていると地元・横須賀市の有志が私設応援団を作り、さらに横須賀市体協がクラウドファンディングを行って支援を行ってくれた。その結果、2つの団体から499万円の活動費が送られた。「横須賀のみなさんの優しさと熱い応援に応えたい」と須長はいう。レース会場は江の島沖で、これまで練習をしてきた場所。ウインドサーフィンは風向き、潮の流れなどコンディションを知ることが有利に働く。アドバンテージを得た須長がウインドサーフィンで初の8位入賞を果たして実現できるか、たのしみだ。

 東京五輪は、7月23日から8月8日までの開催になっている。
 これまでの五輪とは異なる開催状況の中、アスリートにとっては不便があり、調整の難しさがあったはずだ。そんな状況を乗り越えて、アスリートがどんな活躍を見せてくれるのか。コロナ禍で憂鬱な時間を一瞬でも忘れさせてくれるような活躍に期待しつつ、選手にはこれまでの努力が報われるような結果を掴んでほしいと願うばかりだ。

<執筆者略歴>
佐藤 俊(さとう・しゅん)
北海道出身、青山学院大学経営学部を卒業後出版社を経て、93年よりフリーのスポーツライターとして独立。サッカーを中心にW杯は98年フランス大会から18年ロシア大会まで6大会連続で取材継続中。他に箱根駅伝を始め陸上、野球、卓球、体操等さまざまなスポーツをメインに執筆。現在、Sportiva(集英社)、Numberweb、文春オンライン(ともに文藝春秋)などに寄稿している。
2021年4月よりFm yokohamaで「LANDMARK SPORTS HEROES」というアスリートへのインタビュー番組をスタート。毎週日曜日15時30分よりオンエア中。
著者に「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など多数。

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