“マス”でありながら少人数。小さな放送局の取材方法はコロナ下でどう変わったのか
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“マス”でありながら少人数。小さな放送局の取材方法はコロナ下でどう変わったのか

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【全国の地上波放送局の中でも最少といえる人員で日々の報道を続ける富山チューリップテレビは、コロナにどう立ち向かい、コロナから何を得たのか】

安倍太郎(チューリップテレビ・報道デスク)

 コロナ下における報道について、詳細な事例や放送局としての取り組みをこれまでいくつもの放送局がまとめて来ています。今回は平成新局と呼ばれ、全国数多ある放送局のなかでも最少といえる人員で報道部門を切り盛りしているチューリップテレビの、ここ2年の実情から、取材方法の変化と解決に至っていない課題たち、そして“気付き”を記録しておきます。

撮影方法の制約と変化

 テレビ局の取材とは、たいていが記者・カメラマン・音声マン(場合によっては移動のための運転手)という取材クルーによってなされるイメージがあるかと思います。しかし地方局では、記者とカメラマンのみであることも多々あり、さらにチューリップテレビでは記者がひとりで車を運転して取材に赴き、メモをとりつつカメラで撮影するケースも当たり前で、毎日のニュース取材のなかでそれなりの分量を占めています。

 さて、コロナ下では、取材対象者のインタビューでも距離をとる必要があります。記者がもったカメラを直接対象者に向けて話を聞く形は、距離が近すぎるため避けなければいけません。そのためインタビュー(囲み取材、ぶら下がりと呼ばれるもの)が発生するものはカメラマンを優先的に配置。それでも足りない場合は、クリアな音質でなくても記者が遠くからカメラを向け音声を録る形になり妥協したと言わざるを得ません。

1④ 画像② 距離を取った取材

 また、企画取材などでは対象者と距離をつめた車内での撮影なども多用されてきましたが、それもできなくなりました。しかし、この制約は、安易に対象者との物理的な距離を縮めて内心に迫るという演出に陥るのではなく、取材対象者の本心や本音をどのようなシチュエーションで聞き映像で切り取るのか考えるきっかけとなり、演出を豊かにする一助になると感じられます。

【引き続き「会見取材、専門家取材の変化」に続く】

会見取材の変化

 富山県の県政記者クラブに加盟する当社を含む民放3社とNHKの計4社は、新型コロナウイルスに関する県や富山市の会見を、輪番制の代表撮影としています。コロナ対策として3密を避けるよう呼びかけがなされる場に集まる報道陣の数を減らすことを主な目的として、実施に至りました(各社判断で自社のカメラを入れることは可能)。さらに、この会見映像は民放3社がそのままYouTubeで生配信する横並び状態となっています。

1④ 画像③ 知事会見

 この「代表撮影」をきっかけに、週1度の知事定例会見も同様の仕組みを導入。こうした「代表撮影」は、特にローカルの現場で、感染対策と取材効率化のもとに、会見取材のみならず拡大していくものと感じられますが、それにより「取材ではなく作業」となることが危惧されることと、記者クラブそのものが内包する閉鎖性を加盟社内の共同作業によって、より自覚症状のない問題にしてしまうことも事実です。

専門家取材の変化

 ローカル局が、さまざまな問題に視座を提供する「専門家」に取材する際、エリア内で活動する人に申し込み、対面取材するという自制があったと考えています(まちづくりや地震断層の研究など、地域に関わり特段の知見がある場合は除く)。しかしオンライン取材のハードルが格段に下がり、エリア内に居住する「専門家」でさえビデオ通話で取材することが普通になったことから、取り上げる事案に適した知見を持つ「専門家」に、幅広く取材依頼をするようになりました。

1④ 画像④ オンライン取材

 これは視聴者の「知りたい」にこたえ、記者自身も取材を通して学びを深めることができる良い変化だったと思います。一方、ローカル局の存在意義として、エリア内で活動する研究者の方々の取り組みや成果を取材し、報道する努力は続けなければいけません。それが何かの事象の解説取材につながると考えています。

DX推進と「データ活用」の壁

 全社的なデジタル化の動きもあいまって、報道部門として新型コロナの“感染の波”などが把握できるよう、行政が発表する新規感染者数などをグーグルが提供するサービスを通してデータ化していきました。必要なデータを取り出すことが容易になったものの、OAでは大量のCGが必要になります。当社ではニュースのCG担当はわずか1人であり、負担がかかることから、課題のひとつになっています。

 また、紙でまとめていたデータを全員が共有できたものの、その大量のデータを読み解き、なにを切り取って放送に結び付けるか、深堀りしたアウトプットにつなげた例はほとんどなく、努力を怠ったと言わざるを得ません。何を映像化するのか、何を撮るのか、その取材方針の土台となるデータ解析の重みがましていると感じます。

1④ 画像 ⑤ データ

(社内向け「感染の波」データ)

報道機関として

 ここまで、取材方法などに関して変化したものを列挙してきました。最後に、富山県における各報道機関、放送局に対する県民の信頼はどう変化したのでしょうか。

 視聴率を指標にしても、古参の局がさらに信頼を得たのが事実です。しかしそれは、今も報道機関が、そしてテレビニュースが、視聴者に求められているという証左でもあるのだから、「まだまだわたしたちは伸びしろがある」と気持ちを強くして、真摯に県民が求めるニュースを出し続けていかなければいけないと考えています。

 放送局に幅広い分野のニュースが求められるなか、初めに挙げたように、少人数で取材に奔走する記者の負担は増しています。さらに、コロナ下となってから報道部門に仲間入りした方々は、成長を後押しされるというより、無理にも成長を迫られているような状況で苦労していると思います。

 しかし、ここまで書いてきたコロナ下で変化した取材方法を“スタンダード”として、①エリア内の取材に拘泥することなく、②データを集めて事実をとらえたうえで問題意識をもって、③取材対象の本質に迫る映像を考えて撮るという、報道する立場として当然の“気付き”と向き合うことで、視聴者の信頼を得て、報道機関としての務めが果たせるのだと、あらためて考えています。


<執筆者略歴>
安倍 太郎 (あべ・たろう)
富山県富山市出身。1983年生。2006年チューリップテレビ入社。
報道制作局配属後、社会部として“氷見えん罪事件”“政務活動費不正”を取材。
イタイイタイ病をテーマにしたドキュメンタリーなどを制作。
営業経験を経て2019年から報道デスク

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chousa@tbs-mri.co.jp


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