3度の緊急事態が出された 大阪・関西の現場から
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3度の緊急事態が出された 大阪・関西の現場から

【コロナ禍で注目を集めた大阪府。地元メディアはどう向き合ったか。首長の発言をただそのまま伝えたことにも課題は残る】

米澤飛鳥(毎日放送報道局ニュースデスク)

はじめに

 「感染者数全国最多」「重症病床使用率100%超」「保健所介入前に自宅で死亡」、第4波の渦中だった今年4月から5月。MBSは関西、とりわけ大阪について連日厳しいニュースを発信してきた。日々刻々と状況が変わる「コロナ禍」。MBSの報道現場はどう向き合い、伝えようとしてきたか。日々頭を悩まし続けている1デスクの立場から、特に「首長との向き合い」について振り返りたい。

コロナで多発!生掴み 

 大阪のメディアにとって切っても切れず、そして取り上げ方が悩ましいのが「首長」、とくに大阪の吉村知事、松井市長両者の存在である。
 橋下徹府知事(のち大阪市長)誕生以降、知事、市長ともに毎日の「囲み」設定、加えて週1度の定例会見があり、いずれも質問が途切れるまで続けられる。
 記者にとって取材時間が存分確保出来るし、首長側は発表をメディアに取り上げてもらう機会が増えるウィンウィンの関係なのだが、距離が近くなりすぎる危険性をはらんできた。そしてコロナの感染拡大とともに、知事市長を取り上げる機会はグンと増えた。背景に、民放各局とも午後から夕方の時間帯がほぼ情報ワイド系生番組の時間帯になっていることがある。MBSも午後2時から午後7時までニュース枠もはさんでずっと生放送だ。
 第1波。コロナに対する情報や知見はまだ乏しく世間には不安感がただよっていた。
 そんな中で歯切れのよい発言とともに「大阪モデル」など、分かりやすい政策を続々と発表する吉村知事。連日、知事の発言からニュースを作り、生放送時間枠と重なれば、会見の模様を生のまま流す、いわゆる「生掴み」するようになった。
 各局同じ状態のため、同時間帯に吉村知事の顔がズラリと並ぶというのは珍しい光景ではなくなった。知名度は一気にあがり、後手後手にまわる政府VS寝る間も惜しんで働く、モノ言う知事という構図が出来上がったようだ。
 「生掴み」により自治体のコロナ政策をいち早く伝える、その速報意義はあるだろう。一方で報道側が「伝えるに値するか」判断する間なくダダ流しするため、課題面を伝えるなどの多角的、批判的な視点がおろそかになってしまう。と反省しつつも、速報合戦の波にのまれ、「生掴み」する日々は続いた。

【引き続き、「速報性を重視するあまり…」に続く】

速報性重視するあまり

 そんな中、第2波の頃から「あれ⁉」と思う発表や発言も出始めた。
 その最たるものは「ポピドンヨード」騒動だ。
 去年8月。「うそのようなほんとの話です」吉村知事の会見は引きのある第一声から始まった。「イソジン」などのうがい薬が卓上にならんでいる。
 MBSは内容を事前に把握していなかったため、生で会見を流す体勢を取っていなかった。他局は生で取り始めた。「わ!出遅れたか‼」大いに焦る。「うちはなんで生で取らないんや⁉(怒)」報道フロアではそんな声も上がった。
 ところが発表は荒唐無稽とも言えるものだった。

②うがい薬会見20200804

(「ポピドンヨードうがい」について会見する吉村洋文知事)

 曰く、「ポピドンヨードを含むうがい液でうがいをすると、感染者の陽性率が下がる可能性がある」。各局、腹帯速報などで報じ始めた。うちもあわてて追っかけOAした。
 しかし、よくよく聞いてみると、感染者の唾液をPCR検査すると、うがい後に陽性率が下がったというものだった。それは単に「うがい」そのものによる効果ではないのか。調査データもまだ少ないということだった。それらの事は会見を最後まで聞けばわかるのだが、速報性を重視するあまりに冒頭部分だけ切り取ってOAすると、ポピドンヨードがコロナ感染を抑えるかのようにミスリードしかねない。実際、このあとうがい薬は品薄となった。
 取材する側も正しい知識を持って対応しないと、不確かな情報をそのまま流すことになる。放送したものはすべて自社の責任だ。受け手側の能力と覚悟も試されている。

第4波 耳をすます

 「変異株に置き換わり重症化する速度が想像以上に早い」今年3月半以降、吉村知事の囲みは緊迫の度合いを増していった。
 「第4波」。新規感染者数は連日右肩上がりで増え、重症病床の使用率が100%を超えた。死亡者数が急増し、保健所による「入院調整中」に亡くなる人が目立ち始めた。
 MBSは保健所で何が起きているのか内情を話してくれる職員を探し始めた。
 そしてたどり着いた現場の責任者的立場の職員。
 なんと実名顔出しで答えてくれることになった。
 感染者が急増し、陽性者への連絡にほとんど手が回らないこと。その背景に職員の配置不足があることが証言と内部資料から分かり、連日ニュースで報じた。

③大阪市保健所20210511

(実名・顔出しで現場の実態を証言する大阪市保健所職員)

 これに対し松井市長は「資料には載せていない応援職員を派遣した」と猛反発してきた。しかし現場で取材すると、それでも足りている状況でなかった事がわかった。
 放送後、職場には職員補充がなされたという。職を辞す覚悟で答えてくれた現役職員。実態を伝えたことは意義ある事だったと思う。

 また、他にもMBSだけが取り上げた「声」があった。
 大阪市立小学校の校長が市長に投げかけた「意見」だ。
 松井市長は3度目の緊急事態宣言を受け、小中学校について、自宅でのオンライン授業を実施すると突然発表し、MBSも速報した。
 一方、突然のことに現場は混乱した。こうした中、一人の小学校長が「疑問の声」をあげた。学校現場の混乱と児童保護者へ大きな負担がかかった実態を実名で意見書にまとめ、市長と市教委に提出したのだ。
 情報をキャッチしたMBSは校長に連絡をとり、インタビューのアポを取りつけた。ところが意見書を出した校長について松井市長は「組織の方向と合わないものは去るべき」と発言したのだ。耳を傾けない姿勢に疑問を感じた。
 こうした発言も影響したのか、校長は取材は受けられない、と断りをいれてきた。
 しかし、たとえインタビューがなくても、ニュースにすべきと判断し一連の出来事を2回にわけて放送した。なぜか他局はニュースにしなかった。
 たった一人の訴えであっても耳をかたむける。
 こうした積み重ねを大事にしないと単なる首長の広報機関となってしまうだろう。

④校長の提言書20210520

(小学校長が大阪市長と市教委にあてた「提言書」) 

コロナ報道 模索は続く

 コロナ禍はもう1年半以上続いている。
 相変わらず1日のニュースの8割~9割がコロナ関連、という日々だ。
 振り返ってみると、吉村知事や松井市長に注目が集まり、地方行政への関心が高まったことは良かったと思う。
 適度な距離を保つことを意識しながらきょうも「是々非々」で向き合っている。

<執筆者略歴>
米澤飛鳥(よねざわ・あすか)
2000年、毎日放送入社
2002年より報道局記者
京都支局、大阪府警、司法、行政、ドキュメンタリー制作班などを経て
2019年よりニュースデスク 

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