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ラジオに課せられた今後の課題

【AMラジオはFM放送への転換を迫られている。なぜ転換するのか、その理由と今後の課題を通じて、ラジオの未来像を描く】

入江 清彦(TBSラジオ アドバイザー)

AMからFMへ、その理由は

 TBSラジオ開局70周年記念特別番組が流れる社のデスクで今この原稿を書いている。
 70年前の1951年12月25日にTBSラジオはAM放送をスタートさせた。全国には70周年を迎える民放AM局も数多い。70年もの時を経て我々民放AM局の多くはAM放送を終了させFM放送に転換する方針を選択した。多くのAM局は80周年をFM局で迎えるであろう。

 何故AM局のままで居られないのか?
 
 高速を走っていると、赤白に塗り分けられた遥か高い鉄塔をちょいちょい見かける。これらがAMアンテナであるが、AMの長い歴史とともに老朽化による更新時期が迫っている。高さ100mを超える巨大アンテナは同じ敷地内では放送を続けながらの建て替えは不可能であり、かといって新たな敷地の調達は近隣住民への了承も含め日本の多くのエリアで困難である。となれば、AM放送は現在のアンテナの寿命とともに尽きることになる。

 もう一つの理由は、現在全ての民放AM局は都市難聴、外国波混信、災害対策などでFM補完放送をサイマルで実施しているが、この結果、収入は変わらずコストはダブルとなり、これがAM局の経営を大きく圧迫し続けている。

 果たして、将来に向けた我々AM社の選択はAMに比べ設備更新も容易で安価なFMへの一本化しか無かった。

【引き続き「FMへの転換は国策ではない」に続く】

「FMへの転換は国策ではない」

 総務省の有識者会議「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」ではAMラジオの将来像が検討テーマとして掲げられ、我々AM社の要望にそった「AMからFMへの転換が可能となるような制度整備」が分科会で提言された。それを受けて総務省ではFM転換及び実証実験の考え方を2020年秋に公表し、いよいよFM転換への動きが具体化した。

 この中には基本方針として重要な事柄が示されている。

 「AM放送のFM放送への転換はラジオ放送事業者の経営判断により行われるものであり、国策として全てのAM事業者にFM転換を求めるものではない」

 この国策でない事がTVの地デジ化との大きな違いであり、ラジオのFM転換を難しくしている一つの理由である。

 われわれAM社がFM転換及びAM停波を経営判断する場合のポイント、そして課題は何か?

リスナーへの周知がカギ

 一言で言えば、いかにしてAM停波のダメージを少なく出来るかである。送信側の課題としては現在AMでカバーしているエリアをFMで何処までフォローできるか。総務省は世帯カバー率90%を目安としており、昨今ユーザー数を伸ばしているradikoに関しては、災害時の輻輳などを理由に放送の代替にはならないとの見解を示している。更に、トンネル内でのワイドFMでの再放送設備の整備も課題となる。

 一方、受信側の課題はワイドFM(90MHz以上)に対応した端末の普及が挙げられるが、我々事業者の都合でリスナーにラジオの買い替えを促すのは容易ではない。首都圏リスナーへの丁寧な広報キャンペーンがカギとなる。首都圏のAM局が手を結んで共同キャンペーンを展開することが望ましいが、個社の経営判断がマチマチであればそれも無理である。リスナーからの理解が無ければFM転換及びAM停波は実現しない。総務省は「FM転換はAM社の経営判断に委ねられている」と示しているが、結局はリスナー本位のFM転換にならざるを得ないのが実状なのである。

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 直近の首都圏リスナーの媒体別利用調査によれば、現在TBSラジオを聴く手段としてはradikoが最も多く、次にAMラジオ、最後にワイドFMとなっている。特に若者はradiko利用が圧倒的多数であり、既にradiko利用のリスナーにとってはAMからFMへの転換などは全く他人事である。事実、調査ではワイドFMの認知率も若者の方が低い。


民放ラジオに課せられたもの

 この11月から、総務省では新たな有識者会議「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」が設置され急ピッチで検討が重ねられている。検討テーマとしては、ユーザーにとって通信と放送の区別が意識されない中での放送の役割と義務について、放送ネットワークインフラの将来像としてブロードバンド代替の可能性について、更にユニバーサルサービスとして民放に課せられたあまねく努力義務の達成水準や達成手段等の在り方にまで及んでいる。

 この検討会の行方次第では、ラジオの放送ネットワークの考え方にも大きく影響を与え、もしradiko等通信インフラの活用が放送代替に含まれれば、FM転換の取り組み方は根本的に変わる。

 FM転換実現への大きな課題であるFM波によるカバー率もワイドFM端末普及もトンネル再送信もradikoにとっては一切無縁である。もはや少子高齢化・都市集中・通信技術の飛躍的進化と若者のネット依存が進む中、放送ネットワークで全てを賄う放送事業者の在り方は変わらざるを得ないのではなかろうか。

 ラジオに限らず多くの放送局がメディア企業からコンテンツ企業に変貌する事を表明している。TBSラジオもその一つであるが、コンテンツ制作に必要な経営資源を確保するためにもAM送信に関わる莫大なコストを削減する事は必須であり、その為にはFM転換及びAM停波を無事に成し遂げなければならない。

 TBSラジオも他の多くの民放AM社と同様、2028年秋の再免許時にはFM局になる事を目指している。カウントダウンは始まり既に7年を切った。

<執筆者略歴>
入江 清彦(いりえ・きよひこ)
1980年3月 東京理科大学卒業、
同年4月   株式会社東京放送入社 ラジオ本部放送部
2000年4月 株式会社TBSラジオ&コミュニケーションズ制作部長
2004年4月 編成局長
2006年6月 取締役 
2012年4月 代表取締役社長
2012年4月 株式会社東京放送ホールディングス執行役員
2016年4月 社名を(株)TBSラジオ&コミュニケーションズから
(株)TBSラジオに変更
2018年6月 取締役会長
2021年6月 アドバイザー、FM推進統括

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chousa@tbs-mri.co.jp


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